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菅義偉首相が就任後初めてロシアのプーチン大統領と電話で協議した。プーチン氏に「北方領土問題を次の世代に先送りせず終止符を打ちたい」と訴えたという。
安倍晋三前政権の継承を掲げる菅氏は、対露外交でも同じ路線を引き継ぎたいようだ。だが、それで展望は開けるだろうか。
露大統領府の発表では、両首脳は新型コロナウイルスのワクチン開発を含む医療分野での協力について話し合い、「あらゆる分野での協力推進」で一致したという。平和条約や領土問題に関するやりとりの説明はロシア側からはなかった。
電話協議があった日にロシア軍は北方領土で軍事演習を開始した。「敵が電磁波や無人機で攻撃してくる」との想定で、1500人以上の軍人が参加したという。
演習は電話協議のタイミングに合わせて「島を軍事的にも支配し続ける」との強固な意思を示す狙いだったと考えるのが妥当だ。
安倍前首相は日露交渉に前のめりの姿勢を示し、国民に期待を抱かせた。ウクライナ問題が深刻化する中、米政府の反対を押し切って2016年にロシアを訪問した。その年の12月にプーチン氏を日本に招待し、首脳会談で北方領土における「共同経済活動」の交渉開始で合意した。
18年11月のシンガポールでの首脳会談では、安倍氏はそれまで日本政府が堅持してきた「4島返還」の方針を転換し、歯舞・色丹の「2島返還」へとかじを切った。
それでもロシアは動かなかった。プーチン氏は、2島を引き渡した後の安全保障上の懸念を公言した。共同経済活動も交渉が進まず、いまだに本格化していない。
ロシアが強硬なのは「第二次大戦の結果、4島が自国領になった」との認識があるからだ。プーチン氏は戦勝の記憶を国民にとって神聖なものにまで高めた。
今年改正されたロシア憲法には「歴史的真実を守る」との条項が加えられ、「領土の割譲やその呼びかけ」も禁じられた。領土交渉は極めて厳しい状況にある。
従来の交渉スタイルにこだわらない安倍氏の「新しいアプローチ」は頓挫した。対露外交は継承だけでは進展しない。仕切り直しが必要だ。