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余録

それは1965年の夏の10日間の出来事だったという…

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 それは1965年の夏の10日間の出来事だったという。後にファッションデザイナーとして世界がその名を知ることになる高田賢三(たかだ・けんぞう)さんはパリに来て半年、生活苦からなすところなく日本への帰国を決意していた▲帰る前にせっかく描いたファッション画を誰か専門家に見てもらおうと、ルイ・フェローの店に飛び込んだ。すると居合わせたルイの奥さんが5枚買ってくれた。気をよくした高田さんはファッション誌「エル」の編集部へも行った▲そこでは倍の単価で10枚が売れた。10日余りの間に、訪れた専門誌、百貨店、既製服メーカーはことごとく言葉もたどたどしい無名の日本人青年の絵を買ってくれた。ファッションの都・パリが求めていた才能を見いだしたのである▲高田さんが同地に店を開いたのは5年後だった。初のコレクションでは、立体的な西欧の服飾に直線と平面からなる日本の伝統美を取り込んで衝撃をもたらしたという。「異質」が求められていた当時のパリのファッション界である▲世界各地の衣装に想を得たフォークロア(民俗調)など、多文化的なモチーフと華やかな色遣いで、時代の求めるものに応えてきた高田さんだった。今年1月にも新ブランドを立ち上げたというのに、コロナ禍による突然の訃報である▲「パリはきょうその息子の死を悼んでいる」とはパリの市長の言葉である。夏の10日間で見いだした才能に活躍の舞台を与え、大きく花開かせたファッションの都も、この唐突な別れには涙していよう。

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