台風19号1年 加須市の広域避難 「まず市内へ」と見直し 「県外」望む声根強く /埼玉

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寺本道郎さんは着替えや懐中電灯、消毒液、飲料水のペットボトルなどを積んで自主防災訓練に臨んだ=埼玉県加須市で2020年9月27日午後0時47分、岡礼子撮影 拡大
寺本道郎さんは着替えや懐中電灯、消毒液、飲料水のペットボトルなどを積んで自主防災訓練に臨んだ=埼玉県加須市で2020年9月27日午後0時47分、岡礼子撮影

 加須市が初めて県境を越えた広域避難を伴う「避難指示」を出した台風19号から12日で1年。新型コロナウイルス感染拡大もあって避難場所の不足が見込まれる中、市は広域避難の見直しを迫られ、県外避難を実施した北川辺地区(旧北川辺町)にも「災害時は、まず市内へ避難を」と呼びかけている。しかし、住民からは「遠くの市内より、近くの市外へ避難したい」と望む声も根強い。【岡礼子】

 「県外避難先が書いていない」。北川辺地区にある栄東自治会の防災担当、寺本道郎さん(70)は、8月の市報に折り込まれた避難経路図を見て驚いた。これまで載っていた県外の避難先一覧がなかったからだ。

 北川辺地区は利根川と渡良瀬川に挟まれ、群馬、栃木、茨城との県境にあり、場所によっては10メートルの浸水が想定されている。台風19号の時は、加須地区など市中心部に行く唯一のルートである埼玉大橋が大渋滞した。

 市は北川辺地区の住民に対し、台風19号以前は避難先として群馬県や栃木県を市内と同様に示していたが、その後、新たに避難先として市中心部の学校や施設を追加。避難者の駐車場も確保した。

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 背景には受け入れ側の事情がある。加須市を含む利根川中流域の市町による「利根川中流4県境広域避難協議会」では6月、参加自治体から「(他の自治体からの避難者を)状況によって受け入れられないことも考えられる」「特定の場所を事前に広く示すのは避けたい」といった意見が上がった。

 市は市外の避難所掲載を取りやめた理由について「他の市町でも避難所が足りないことが分かり、市内でまず確保する」と説明する。ただし、新型コロナ感染防止で収容人数を制限すると、市内でも想定通りの受け入れが難しくなる可能性があり、市の担当者は「知人宅など、避難先をなるべく自分でも探してほしい」とも話す。

 住民側も、市中心部への避難に対応しようと訓練を始めた。

 9月27日、栄東自治会は自主防災訓練を行った。住民がそれぞれ想定している避難場所に個別に向かい、かかった時間や気づいたことを共有する。着替えやタオル、携帯トイレなどを車に積み込む、本格的な訓練だ。

 20人が参加し、新たに避難先になった市立志多見小学校などに向かった。住民にはなじみがない場所だ。訓練に参加した池田春美さん(65)は「自分で運転してみないと、道が心配だった」。他の住民からも、繰り返し訓練を行う必要性を指摘する声が上がった。

 県外避難を望む声も根強い。台風19号の時、群馬県板倉町の小学校に避難した鈴木紀久夫さん(66)は「水害の避難で川を渡らなければならないのは不安。市中心部より、近隣自治体との連携を強化してほしい」と望む。

 市によると、県外の隣接6自治体と結んだ防災協定に変更はなく、避難経路図に掲載できるよう調整を続けており、市報配布後に群馬県館林市で3カ所、栃木市で1カ所の記載が可能になった。2020年度中には避難経路図に載せる方針という。官民ともに避難のあり方について模索が続いている。

早めの判断促す基準も

 加須市は避難情報を出す基準の見直しを進めている。避難指示に先立つ「自主的広域避難情報」は、「3日先の利根川上流域の予測累計雨量が300ミリを超える可能性がある場合」に出すことにした。利根川中流4県境広域避難協議会は6月、同じ基準で広域避難の共同検討を始めるとしており、加須市は協議会の指針より「先に動く」ことになる。

 避難勧告を出す基準についても、従来の水位に加えて台風の勢力などの気象条件を追加。日中の明るいうちに出すことも決めた。

 同協議会は、利根川の氾濫で浸水想定地域の住民が一斉に車で避難した場合、逃げ終えるまで8時間かかるというシミュレーション動画を作成。加須市は9月、市ホームページで公開した。協議会のアドバイザー、片田敏孝・東京大特任教授は「渋滞は避けられないと住民に周知することで、早めの避難を促してほしい」と話す。

 農家の多い北川辺地区では台風シーズンが繁忙期に重なることもあり、避難の判断は難しい。栄東自治会の寺本道郎さんは「住民が自主的に判断して避難するために、市は新しい基準をもっと分かりやすく説明してほしい。検証も方針づくりも、市と住民で一緒にやりたい」と話す。

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