日本学術会議の新会員候補のうち6人を任命しなかった問題で、菅義偉首相はきのうの毎日新聞のインタビューでも具体的な理由を明らかにしなかった。
首相は「総合的、俯瞰(ふかん)的活動、すなわち広い視野に立ってバランスの取れた活動を行い、国の予算を投じる機関として国民に理解される存在であるべきだ」との観点から判断したと繰り返すだけだった。抽象的で、なぜ除外したのかが分からない。
学術会議の設置法は、会員について「会議の推薦に基づいて首相が任命する」と定めている。条文を審議していた1983年に中曽根康弘首相は「政府が行うのは形式的任命にすぎない」と述べた。それゆえ「学問の自由独立はあくまで保障される」と答弁した。
ところが、政府は今回、形式的任命を行わないことについて、過去の答弁との矛盾はなく、法解釈も変えていないと主張する。
持ち出したのは、内閣府が2年前に作ったという内部文書だ。推薦された人を首相が必ず任命する「義務があるとまでは言えない」と記し、人事を通じて一定の監督権を行使できるという内容だ。
文書は、公務員の選定は国民固有の権利と定めた憲法15条を根拠にしているが、これは一般的な理念を示したものだ。独立性の高い学術会議にも人事・監督権が及ぶという説明は説得力を欠く。
今回のようなつじつま合わせが通用するようなら、検察庁や会計検査院など他の独立性の高い行政機関の人事にも影響を及ぼしかねない。
首相は、人事権を使って首相官邸に権力を集中させ、政策推進の原動力にしようとしている。しかし、公正で透明な手続きを欠けば、強権化につながる恐れがある。
政権内からは学術会議のあり方を見直すべきだとの意見も出ている。だが、任命拒否に対する疑問に答えず、会議のあり方に矛先を向けるのは論点のすり替えだ。
河野太郎行政改革担当相は、学術会議を行政改革の対象にするという。「行革」の名の下に圧力をかける狙いが透けて見える。
首相は任命拒否について、合理的で国民が納得できる理由を示さなければならない。それができないのであれば、撤回すべきだ。
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