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今よみがえる森鴎外

/19 音楽への眼力 愛するオペラと批判的精神=音楽評論家、思想史家・片山杜秀

森鷗外の書き込みがあるオペラ「オルフェウスとエウリディケ」の台本。ライプチヒ市立歌劇場で観劇した1885年6月21日の日付どが赤インクで記されている。これを原書に、鷗外は翻訳を進めた=『鷗外文庫』(東京大学総合図書館所蔵)

 <文化の森 Bunka no mori>

 森鷗外の小説「文づかひ」は1891(明治24)年に発表された。一節を引く。

 「曲正(まさ)に闌(たけなわ)になりて、この楽器のうちに潜みしさまざまの絃(いと)の鬼、ひとりびとりに窮(きわみ)なき怨(うらみ)を訴へをはりて、いまや諸声たてて泣(なき)響(とよ)む」

 何の描写か。ピアノだ。鷗外の分身たる日本の軍人が、ドイツの古城で貴族の令嬢の演奏を聴く。鍵盤を押すと連動したハンマーが弦を叩(たた)く。鷗外は叩かれて呻(うめ)く一本一本の弦を鬼に見立てる。楽曲の高潮部を、鬼たちの怨(うら)みが泣き声の大合唱と化すと表現する。日本の文学者が西洋音楽を自分の耳で確かにつかまえた最初期の名文だろう。しかも鷗外の後々までの音楽観がここから察せられるようにも思われる。

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