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今どきの歴史

サキタリ洞遺跡(沖縄県南城市) 旧石器時代の多様性

サキタリ洞。「ガンガラーの谷」ガイドツアーの出発点で、ケイブ(洞穴)カフェでもある=沖縄県南城市で

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 旧石器発掘捏造(ねつぞう)事件が発覚して20年がたち、その後の研究状況が気になる。日本列島の旧石器時代研究で、飛躍が感じられるのが沖縄だ。その原動力の両輪が石垣島の白保竿根田原(しらほさおねたばる)洞穴遺跡と、本島の南部・南城市のサキタリ洞遺跡である。

 前々回、アジアを代表する旧石器人骨の港川人(2万2000年前)を紹介した。ただ、石器などの生活遺物がなく、考古学的評価の難しい状況が続いてきた。そこに、2009年に発掘が始まったサキタリ洞が風穴を開けた。沖縄の旧石器遺跡では例外的に、生活痕跡の宝庫だったのだ。

山崎真治氏

   ■  ■

 港川遺跡から北へ2キロ弱のサキタリ洞遺跡は誰もが楽しめる文化財だ。観光客に人気の鍾乳洞、玉泉洞の目の前に「ガンガラーの谷」がある。鍾乳洞や亜熱帯の森、峡谷のガイドツアーコースになっていて、観光におすすめ。受付は大きく口を開けた鍾乳洞だ。テーブルや椅子が並び、独特の雰囲気の「ケイブ(洞穴)カフェ」として営業している。

 このカフェスペースの大洞穴が、実はサキタリ洞そのものなのだ。

 約620平方メートル。世界最古の釣り針とされる貝製品(径約3センチ、2万3000年前)の発見現場もその一角にある。

 発掘担当者の山崎真治・沖縄県立博物館・美術館主任学芸員によると、洞穴の地層は3万5000年前にさかのぼり、早くもその時代から、火をたいてできた木炭など、人の痕跡が現れる。

 最も遺物が多いのは、釣り針も出た2万3000~2万年前の地層。食料となったモクズガニやカワニナといった付近の川にすむ生き物の遺骸が大量に出てきた。加えて、何かを切るか削るかした痕跡を残す貝製の道具「貝器」、さらに貝に穴を開けた装飾品のビーズも見つかっている。

 この地層は港川人の年代とまさに重なる。生活の跡がなかった港川人の暮らしを知る手がかりが出てきたわけだ。

 「港川の集団もサキタリ洞の近辺を狩猟採集のテリトリーにしていたに違いない。港川の人がサキタリに来ることがあるし、サキタリの人が港川に来ることもあったと思う」と山崎氏は話す。

 興味深いのは、貝の使用法だ。旧石器時代の貝製ビーズは世界各地にあるという。装飾品を作るのはホモサピエンス(新人)の文化で、サキタリ人も同じだ。しかし、貝器の文化は大陸など周辺にはない。「沖縄に来た人々が島々に適応する過程で従来の文化を変化させ、貝を道具として使う文化を創った」と山崎氏は考える。石器用の石材に恵まれず、貝に活路を見いだす南島の個性を早くも発揮したようだ。

 これらは本土の旧石器人の文化とも違う。サキタリ洞では沖縄で初めて確実な旧石器(1万6000~1万4000年前)も出土したが、本土で見られる狩猟用のナイフ形石器はない。今のところ本土の旧石器文化が確実に及んだのは、南西諸島の方面では種子島(鹿児島県)までだそうだ。

 白保遺跡で大量に出土した人骨のDNA分析でも、港川人骨の形態学的分析からも、沖縄の旧石器人は南方起源の人々といわれる。ただし、その渡来ルートは現状でははっきりしていない。

   ■  ■

 サキタリ洞遺跡の調査はまだ途中。山崎氏の関心の一つに海の資源の利用がある。旧石器時代は狩猟がメイン、海産物の利用は縄文時代以降というのが定説で、白保人骨の分析でも海産物の摂取がほとんどなかった。しかし、サキタリ洞の貝器は海の貝だし、ブダイやアイゴといった海の魚の骨も見つかっている。

 「海の資源の利用が少ないからといって、それが重要でなかったかどうかはわからない。おそらく本土でも、狩猟ばかりではなく、いろんな生業をやっていたと思う。新しい調査で多様な資源利用、多様な旧石器時代像を描くことができるのではと思っています」と山崎氏は話した。

 沖縄の旧石器時代は島々らしい個性を見せながら、本土を含むより広範なエリアの通説をくつがえす可能性を秘めているのだ。【伊藤和史】=毎月1回掲載

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