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めまぐるしく変化する世界の中で一歩ずつ「人間にもどる」
◆『歩くひと 完全版』谷口ジロー・著(小学館/税別2500円)
「完全版」と銘打ち、このたび刊行された『歩くひと』がすばらしい。本作は、谷口ジローが世界に羽ばたく契機となった記念碑的作品。ページをめくるたび、時空間のはざまに誘い込まれる読み心地を味わう。
これといって派手な出来事やおかしな事件が起こるわけでもない。登場人物は、どこかで以前にすれ違ったことのあるような、眼鏡をかけた平凡な様子の男。気の向くまま、まちに溶け込んであっちへふらり、こっちへふらり、ひとり淡々と歩く。けれど、歩を進めれば空気の匂いが変わり、風景が変わり、目の前に現れる人間も建物も自然も変わる。その微細な変化を、ひとつひとつ掬(すく)い上げる谷口ジローの手つきから目が離せなく…
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