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常夏通信

その65 戦没者遺骨の戦後史(11) 会ったことのない父の骨を硫黄島で探す遺族たち

硫黄島・滑走路西側で戦没者の遺骨を探す遺族ら。亡くなった父親に会ったことがないか、記憶がほとんどない遺族も参加していた=2012年7月11日撮影、厚生労働省提供

 私が硫黄島(東京都小笠原村)の戦没者の遺骨収容に参加した場所は、島の中部にある自衛隊滑走路の西側だ。2012年7月。昔から、収容の主力になっているのは遺族である。この収容でも、複数回参加している人がいた。現場は露天である。ベテランの遺族いわく「ここはまだ楽。地下壕(ごう)の方がはるかにきつい」。

 一年中「8月ジャーナリズム」=戦争報道をしている常夏記者こと私は、遺骨収容ではないが、硫黄島のあちこちの地下壕に入ったことがある。温度も湿度も高い。サウナのようだ。狭くて圧迫感もある。硫黄のにおいもきつい。収容どころか、ただいるだけでもつらい。

 地下壕ほどではないにしても、露天でも収容は過酷な作業だ。還暦をとっくに過ぎた遺族たちにとってはなおさらだろう。どんな気持ちで参加しているのか、聞かせてもらった。

 7回目の参加となった女性(68=当時)は、父親の顔を写真でしか知らない。母のおなかの中にいる時、父は出征した。たくさんの遺骨を掘り起こしながら「もう少し早ければ、いい状態で帰ってもらえたのに……」と話す。「1体でも多く、遺骨を返したい」とも。

 初めて参加した男性(66歳=当時)の父親は潜水艦に乗っていて、宮崎県沖で戦死した。自身は1歳だった。「一度だけ、母親が赤ん坊の私を連れて基地を訪ねた時、抱いてくれたそうです」。父の記憶は全くない。それでも母のその言葉を大切に、男性は長い戦後を生きてきた。「父と硫黄島の関係はありません。しかし同じ戦争で亡くなった人たちの遺骨だから。気持ちに区切りがつきました」

 一度も会ったことがないか、会ってもほとんど記憶がない父親の骨を探す。そういう人たちの話を聞きながら、私が想像したのは島に渡った兵士たちの心中だった。

 「妻と幼い子を残していた若い兵士がたくさんいただろう。初めての子どもを、妻が妊娠していた兵士もいたはずだ。老いた親がいる人もいただろう。米軍の攻撃が激化するにつれ、生きて帰ることが不可能であることは嫌でも分かっただろう。『自分がここで死んだら、家族はどうなるんだろう』と、どれほど不安だったか……」

 前にも書いた通り、酸性の強い土に埋まっていた遺骨は、もろい。一見、堅固に見える骨でも、ほんの少し力を入れただけで、ぽろぽろと粉になってしまう。「もっとはやく収容を本格化させていれば」と思わざるを得ない。

 アメリカは1945年3月に硫黄島を占領し遺体や遺骨の収容を進めた。戦死者6821人すべてを収容した、とされる。占領は日本の敗戦から23年後の68年まで続いた。この間、日本側の戦没者遺骨収容はほとんど進まなかった。

 日本政府が硫黄島に調査団を派遣したのは1952年1月である。サンフランシスコ講和条約の発効、日本の独立回復を目前にした時期だった。厚生省(当時)復員局の職員である元陸軍中佐と元海軍中佐、さらに和智恒蔵・元海軍大佐が参加した。和智は44年3月、硫黄島の警備隊司令に就任した。この時点では、海軍側の責任者であった。しかし同年10月、内地への転任が発令された。敗戦後は天台宗の僧となり、硫黄島で戦死した人たちの慰霊に奔走した。

 和智らの一行は52年1月30日、硫黄島に上陸した。同じ日、毎日新聞と読売新聞、朝日新聞の記者らはチャーター機で硫黄島に渡り、現地を取材した。当時、海外の戦没者に対する国民の関心が高まっていたことが背景にある。毎日新聞は2人の特派員によるルポを翌31日の朝刊に掲載した。敗戦から70年以上が過ぎてな…

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栗原俊雄

1967年生まれ、東京都板橋区出身。早稲田大学政治経済学部卒、同大学院修士課程修了(日本政治史)。96年入社。2003年から学芸部。担当は論壇、日本近現代史。著書に「戦艦大和 生還者たちの証言から」「シベリア抑留 未完の悲劇」「勲章 知られざる素顔」(いずれも岩波新書)、「特攻 戦争と日本人」(中公新書)、「シベリア抑留 最後の帰還者」(角川新書)、「戦後補償裁判」(NHK新書)、「『昭和天皇実録』と戦争」(山川出版社)など。

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