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ブラック・チェンバー・ミュージック

/428 阿部和重 写真・相川博昭

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 銀座のカラオケ店ソナタを出たのは午後八時きっかりだった。初対面の韓国大使館員とふたりきりで個室にこもり、まる二時間ものあいだ話しこむことになるとは予想もしていなかった横口健二は、頭の整理もままならず溜息(ためいき)をつくばかりだ。

 用事は家賃と水道料金の支はらいだけだったというのに、一一日ぶりに帰宅してみたら神経をすり減らす一日になってしまった。味わった経験がない種類の緊張感にかられっぱなしだったおかげで、二時間ぶりに銀座四丁目交差点の前に立ったときには精も根もつき果てていた――もっとも、緊張じたいはその後もつづくのだ。

 身分証を呈示され、名刺をもらい、まる二時間ものあいだ話しこんだからといって相手を全面的に信用しきっていい状況ではない。一歩でも判断をあやまればたちまちハナコ(﹅﹅﹅)の身を危険にさらすことになりうるため、用心と慎重をかさねすぎるくらいの対応がもとめられる。不注意の点では今日はすでに、やすやすと尾行を許してしまうというへまをやらかしている以上、おなじ失敗を犯すわけにはゆかない。

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