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男性社会の映画界にも格差解消の兆し 進む海外、日本は?

「パピチャ 未来へのランウェイ」の一場面。ヒロインのネジュマ(中央)はイスラム原理主義とファッションで闘う。10月30日から、東京・ヒューマントラストシネマ有楽町などで公開

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 映画界は誕生以来、典型的な男性社会。撮影現場は力仕事で、大勢を束ねて一つの作品に結実させる胆力も必要だ。女性の職種はメークや衣装などに限られていた。世の中の男女平等の流れはなかなか届かなかったが、ここに来てその波が大きなうねりとなって押し寄せている。女性監督の活躍が目立ち、撮影現場に女性の姿が増えただけでなく、スクリーンに登場する女性像も、これまでとは様変わりしてきた。125年の映画の歴史は、大きな転換期を迎えている。【勝田友巳】

「映画界に女性差別」 カンピオン監督の痛烈な批判

 「映画界には性差別がある。女性の視点がもっと投影されていい」。ニュージーランドのジェーン・カンピオン監督が、カンヌ国際映画祭で映画界を公然と批判したのが2014年。コンペティション部門審査員長として、公式記者会見での発言だったから、大きな反響を呼んだ。16年には、20年までに映画界の男女平等を実現しようという「50/50 by 2020」運動が広がり、17年にはハリウッドの女優たちが映画界のセクハラを告発した#MeToo運動が後押しとなって、平等化への圧力が高まってゆく。

 まず国際映画祭で、コンペ作品中の女性監督作の比率が目に見えて上がった。19年のベルリン国際映画祭は16作のうち7作で、審査員長はフランスの女優ジュリエット・ビノシュ。20年のベネチア国際映画祭は18作中8作、ハリウッド女優ケイト・ブランシェットが審査員長で、最高賞の金獅子賞「ノマドランド」のクロエ・ジャオ監督も女性だった。賞の選考は作品本位とはいえ、時代を映す結果となった。

第77回ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した「ノマドランド」の一場面。21年1月公開予定

 ベルリンは、21年2月に開催予定の次回から、俳優賞における男女の区別を撤廃することを決め、米アカデミー賞は24年から、作品賞への応募要件として、登場人物や内容が性別や人種などで一定条件を満たすことを求めると発表。多様化への試みは確実に進んでいる。

女性監督の比率 米国7人に1人、欧州5人に1人

 各国の映画における、女性監督の比率を調べた調査がある。米国の「セルロイド・セイリング・リポート」によると、19年の興収上位100作のうち、女性監督作は12%、500作まで見ると14%だ。欧州はずっと先進的で、「映画における女性研究所」調べでは、18年の女性監督の作品は19・2%。製作本数の少ないフィンランドは17年、38本のうち43%が女性監督作だった。もっとも同研究所の報告書は「全体としてはまったく不十分」と厳しく批判している。

 欧州一の映画大国フランスでは、17年の女性監督の比率が25%と比較的高い水準だ。フランスなどの製作援助を受けて「パピチャ 未来へのランウェイ」を製作したムニア・メドゥール監督は「欧州では作家主義的な作品への支援が整っていて、自分の物語を伝えたい、証言したいという思いが現実化されている。女性監督の作品は、個人的な物語が多いように思う」と語る。

「パピチャ 未来へのランウェイ」のムニア・メドゥール監督

 「パピチャ」では、1990年代のアルジェリア内戦下の女子大生を、自身の体験に基づいて描いた。「資金集めは大変だったが、それは女性だからではなく、長編監督デビュー作だし、キャストも無名の俳優が多かったから。そこに差別はないと思う」

 ただ、製作費の大きな作品となると、女性監督はぐっと少なくなる。欧州映画の平均製作費は約306万ユーロ(約3億8455万円)だが、男性監督の作品は375万ユーロ(約4億7126万円)、女性監督は180万ユーロ(約2億2620万円)と倍の開きがある。

日本は20年遅れ セクハラも声を上げられず

 日本の映画界に目を転じれば、その差は明らか。18年に公開された日本映画613本のうち、女性監督作は43本でわずか7%。興収10億円以上の大作となると、31本のうち「コーヒーが冷めないうちに」の塚原あゆ子監督だけだ。

 「日本は20年くらい遅れている」。こう批判するのは、映画ジャーナリストの立田敦子だ。「映画界は高齢化した男性社会。世代交代が進まない。映画会社の上層部も男性ばかり。才能ある女性は大勢いるのに、作品を撮る機会が少ない」と指摘する。「観客は40代以上の女性が厚い層となっている。男女平等を当然と教えられて育った若い世代には偏見がない。多様な作り手が、多様な作品を作る環境が必要だ」

 世界で大きなうねりとなった#MeToo運動も、日本の映画界ではほとんど広がらなかった。といって性的嫌がらせなどがないわけではない。女性映画人に話を聞けば、不快な体験はいくらでも出てくる。立田は「日本には声を上げにくい社会的、文化的背景があるし、波風を立てたら現実に仕事がしにくいという懸念もあるのだろう」と推測する。

 立田はカンヌ国際映画祭を起点に映画界の男女平等を後押しする「ウーマン・イン・モーション」の日本のコーディネーターも務めている。各国でイベントが開催され、格差解消を呼びかけるメッセージが発信されているが、「日本映画界の反応は鈍い」と残念そうだ。

「ワンダーウーマン」「キャプテン・マーベル」……女性スーパーヒーロー大活躍

 男女の格差解消は、映画界の大きな潮流となった。描かれる女性像も多様化している。顕著なのは、ハリウッドの、DCやマーベルのアメコミを原作とする女性スーパーヒーロー映画の隆盛だろう。

シリーズ第2作「ワンダーウーマン1984」の一場面。スーパーヒーローが女性の共感を集めた。12月公開予定

 17年、ワーナー・ブラザースが手がけたDCの「ワンダーウーマン」は、前年公開の「バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生」で脇役として登場した女性ヒーローが主役。女性監督のパティ・ジェンキンスを抜てき、主演も知名度の低いガル・ガドットを起用したこの作品、世界興行収入が800億円を超える大ヒットとなる。続いて19年にはディズニーがマーベルの「キャプテン・マーベル」を公開。女性監督のアンナ・ボーデンが共同監督し、こちらも大当たり。20年には再びワーナーとDCが、中国系女性のキャシー・ヤン監督で「ハーレイ・クインの華麗なる覚醒」を公開。これも大成功。ヒーロー映画は男性向けという業界の常識を覆し、女性客も獲得した。いずれも続編が決まり、揺るぎない潮流となった。

「ストレイ・ドッグ」のカリン・クサマ監督

 これまでにも女性ヒーロー映画はあったが、ほとんどは男目線。映画ジャーナリストの立田は「最近の作品はキャラクターも物語も女性が共感できる。ハリウッドはビジネス面をシビアに見る。多様性に対してセンシティブということもあるが、新たな市場を発見したということだろう。男性観客にこびる必要がないから、肌の露出にも節度がある」と分析する。

 小規模の独立系作品では、さらに大胆な女性像も現れた。「ストレイ・ドッグ」に登場する女性刑事は、違法捜査をものともしないはみ出し者。クリント・イーストウッドが演じた「ダーティハリー」なみの乱暴さだ。

 カリン・クサマ監督は「70年代の刑事物を下敷きに、主人公を女にして母子関係を軸にすることで、新たな視点が生まれると思った」と語る。ハリウッドを代表するスターのニコール・キッドマンが、脚本に目を留めて出演を申し出たという。クサマ監督は「映画界にも多様性を尊重する圧力がかかり、いろんな女性像が描かれるようになっている」。

「ストレイ・ドッグ」の一場面。ニコール・キッドマン(右)は、特殊メークでがらりと雰囲気を変えた。10月23日から、東京・TOHOシネマズシャンテほかで公開

日本もようやく変化の兆し

 さて、日本は。ドキュメンタリー「愛国者に気をつけろ!鈴木邦男」などを手がけた中村真夕監督は、厳しい現実を感じている。日米を行き来して映画に携わってきた。

 「日本も監督やスタッフに女性が増えてきたのに、描かれる女性像は旧態依然。若くて癒やし系の女性が登場するなら受け入れられるが、悪い女性や母親の企画はなかなか通らない。欧米では、イザベル・ユペールやジュリエット・ビノシュ、ニコール・キッドマンらスターを主演に、年齢を重ねた女性が主人公の多様な映画が作られている。日本では女性は、いまだに男性主人公の刺し身のつまのような扱いをされる」と指摘する。中年の孤独な女性が主人公の企画はなかなか出資者が集まらなかったが、公的支援も得てようやく動き出したところだ。

 とはいえ、変化の兆しはうかがえる。20年公開の、三島有紀子監督による「Red」は、専業主婦塔子が昔の恋人と再会し、家族を置き去りにして恋愛にのめりこんでゆく。良妻賢母とは対極の女性だ。

「Red」の一場面。鞍田(妻夫木聡、左)と再会した塔子(夏帆)は人生を見つめ直す。ポニーキャニオンからDVD(4180円)、ブルーレイ(6380円)が発売中

 原作の島本理生、脚本の池田千尋、プロデューサーの荒川優美に三島監督と、製作の中枢を女性が固めた。「全くの偶然」だが、女性が少数派の映画界では珍しい。荒川は「脚本を作る際に女性観客をことさらに狙ったわけではないし、女性らしさを意識したこともない。しかし結果的には良かったかもしれない」と振り返る。

 塔子は家族や社会が求める役割に縛られず、個として生きることを選ぶ。原作とも異なる結末には、女性観客の間でも賛否が分かれた。「どう思うかという、観客への問いかけ。批判も覚悟でやってみようと思った」。荒川と三島は口をそろえた。

「女性監督」ではなく「監督」に

「Red」の三島有紀子監督(左)と荒川優美プロデューサー=2020年10月13日午後7時40分、勝田友巳撮影

 三島は映画界に入って20年近く。撮影現場で若いスタッフが男女の別なく働く姿に、勇気づけられるという。「自分は男性が多い現場で、女性を感じさせないように振る舞ってきた。彼らを見ていると、無駄な部分で努力してきたと勉強になる」。いまだに「女性監督が描く」という枕ことばが付くことが多いが、男性の監督と同様に「『三島が描く』でいいと思う」。

 人間の違いは、男女差よりもきっと個人差の方が大きい。多様な視点で社会を捉え、物語が語られることで、映画はもっと豊かになる。そもそもこうした「女性監督」に焦点を当てた記事がなくなることが、真の平等、多様化の証しだろう。

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