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ある時は元号発表で人気を博した「令和おじさん」。またある時は自身の好きな食べ物から庶民派をアピールする「パンケーキおじさん」。果たしてその正体は「携帯電話料金を4割安く!」など、大衆受けしそうな言葉で巧みに国民の気持ちを操る「値下げおじさん」だった――。以前から菅義偉首相の手法の危うさを指摘してきた東工大教授の中島岳志さん(45)に、首相がもくろむ「その先」を聞いた。
「値下げ」で支持集め 権力強化図る
「菅さんのポピュリスト(大衆迎合主義者)としての最初の成功体験は、東京湾アクアラインの値下げでしょう」。1997年開通の東京湾アクアラインは、当初は普通車の通行料が4000円と高く、交通量が伸び悩んだ。2002年に国土交通政務官に就任した菅氏は、自動料金収受システム(ETC)搭載車の割引実験を実施。交通量が大きく増加したことから、今では普通車800円(ETC)と、大幅な値下げへの道筋を作ったというものだ。
以降は「値下げおじさん」の本領発揮となる。菅氏による「値下げ」で最も知られた政策と言えば、総務相時代(06~07年)に打ち出した「ふるさと納税」だ。応援したい自治体に寄付すると、所得税や住民税が事実上値下げされる。自治体によっては返礼品がもらえるお得感も相まって大ブームになった。「菅さんは庶民感覚が分かっている人。そこが安倍さんや麻生さんとは違う」。祖父が元首相、父が元外相という世襲政治家の安倍晋三前首相、首相時代に国会でカップ麺の値段を「400円くらい」と答弁して市民感覚とのズレが話題になった麻生太郎財務相とは異なり、値下げおじさんは大衆の気持ちに敏感だ。
首相就任後にさっそく着手したのも「値下げ」の類いだった。少子化対策の目玉として打ち出した不妊治療への公的医療保険の適用である。「不妊治療への保険適用は大賛成。でも少子化問題や育児を社会の皆で考え、支え合うというような発想から同政策を打ち出したとは思えない。むしろ権力維持、支持率アップのための道具が『値下げ』と考えればしっくりくる」
中島さんは安倍、菅の両氏を比較して説明する。「アベノミクスは失敗だったと思いますが、金融緩和などそれなりの理論があり、実際に株価も上がった。しかし、菅さんの打ち出す政策はどれも断片的で、一貫性が見えません」
菅氏と言えば、やはり人事である。幹部官僚の人事を一元的に管理する内閣人事局の創設(14年)は、官房長官だった菅氏の主導で実現したとされる。最近も日本学術会議から推薦された新会員候補6人を任命しなかった一件が問題視されている。
「菅さんの値下げ政策と、人事やそんたくの問題はつながっている」。中島さんによると、それが発揮されたのは同じく総務相時…
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