日銀が、紙幣や硬貨の代わりに電子データでお金をやり取りする「デジタル円」の実証実験を来年度から始める。実用化する場合の問題点を洗い出す。
中央銀行が発行するデジタル通貨は法定通貨で信用力が高く、現金と同様に使える。使用先が加盟店に限られる民間企業の電子マネーとは決定的に異なる。
スマートフォンなどを使ってあらゆる支払いや送金ができれば、消費者の利便性は高まる。企業は年8兆円という現金の管理・輸送コストが省ける。
だが、課題も多い。
まず金融システムや物価の安定など本来の政策目的を損なわないことが大前提だ。現金や民間の電子マネーと共存する必要もある。決済の効率化や技術革新を促すことも欠かせない。日銀を含む7中銀などの共同研究報告書もこれらの重要性を指摘している。
このため、デジタル円は銀行などを通じて流通させ、融資など金融機関の機能を損なわないようにする考えだ。使用上限を決めて銀行預金からの移し替えを抑える措置も想定しているという。
ただ、プライバシー保護の検討はこれからだ。個人情報が筒抜けになる事態は許されない。
一方で、不正送金を防ぐには取引の監視も必要となる。両立させるのは難題だ。
日銀は「デジタル円発行は計画していない」と強調してきた。方針を転換し、実証実験を急ぐ背景には、巨大IT(情報技術)企業や中国に先行された事情がある。
米フェイスブックのデジタル通貨「リブラ」構想は規制当局に阻まれている。しかし、他のIT企業などが発行に踏み切る可能性は消えていない。
中国は広東省深圳市などでデジタル人民元の試験運用を始めている。2022年の北京冬季五輪までに正式発行する計画だ。
デジタル人民元は米ドル基軸体制に対抗する思惑も秘めている。日本政府はこれを警戒し、日銀にデジタル円の発行準備を急ぐように求めている。
ただ、拙速に導入すれば、経済や社会を混乱させる。日銀はデジタル円の利点だけでなく、課題を徹底的に検証し、その結果を国民に説明していくべきだ。