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小林 聡美・評『辰巳芳子 ご飯と汁物』『大阪弁ちゃらんぽらん〈新装版〉』
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悲痛な叫びも、抑えられない怒りも、言葉しだいで軽やかになるかも…
◆『辰巳芳子 ご飯と汁物 後世に伝えたい食べ物』辰巳芳子・著(NHK出版/税別2400円)
◆『大阪弁ちゃらんぽらん〈新装版〉』田辺聖子・著(中公文庫/税別800円)
今年88歳になる父親は、春に病気が見つかって現在自宅で療養中だが、同居の母親も高齢で、療養食にまで手が回らないということで、一日2回の配食サービスをお願いすることになった。病人とはいえ、食欲はまだ旺盛で、配達される柔らかくてうすらボンヤリした味付けの食事を、初めの頃こそ健気(けなげ)に食していたが、ふた月めあたりから哀願を含んだ文句を言いだした。「俺は好きな物を食べて死にたい!」。手土産の鰻(うなぎ)や寿司などを病人とは思えない勢いで食べられるくらいだから、あの、いつも同じ容器に入ってくるうすらボンヤリした食事は、お腹(なか)には優しいかもしれないが、気持ち的には全然パワーがチャージされないのだろう。
95歳を過ぎてなおも食への思いを伝え続ける辰巳芳子さん。『辰巳芳子 ご飯と汁物』に登場するご飯と汁物は、誰もが口にしたことのある「日本のごはん」だが(番外編で洋食もチラリある)、そのどれもが神々しく、パワーに満ち溢(あふ)れている。辰巳さんといえば、まさにお父上の介護を通じて開眼したという「いのちのスープ」。そんな命を養うスープに対する真剣勝負を、かつて、スープ教室のドキュメンタリーで拝見したこ…
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