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受信料の義務化提案 国民の理解得られるのか

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 総務省がNHK受信料の支払いを法律で義務づける案を同省の有識者会議に提案した。

 現在、放送法が義務づけているのは、テレビなどの受信機器を設置した世帯や事業者に対する受信契約の締結だけだ。支払い義務はNHKの規約に定められているにすぎない。

 提案は放送法に支払い義務を明記して、受信料徴収に強制力を持たせる狙いがある。不法に支払いを免れた者へのペナルティーの法制化検討も要請している。

 NHKと国民との関係を「同意」から「強制」へと根底から変えることになる。義務化には慎重であるべきだ。

 さらに問題なのは、NHKがテレビを設置しているかどうかの届け出を国民に義務づける案を提示したことだ。

 電力やガス会社など公益事業者や自治体への個人情報の照会を可能にする法改正も求めた。受信契約を結んでいない世帯の居住者氏名や転居先を把握するためだ。

 未契約世帯は昨年度末で約2割にのぼる。訪問活動には年間約300億円かかっている。NHKはこの経費を削減する狙いがある。

 しかし、届け出制は国民に新たな負担を強いるものだ。転居先などの照会はプライバシーの侵害にもなりかねない。

 インターネットの普及で、若者を中心にテレビを持つ世帯は減っている。有識者会議の委員から反発が相次いだのは当然だ。

 支払い義務化は、これまで再三にわたって議論されてきた。2007年には、当時の菅義偉総務相が、2割程度の受信料値下げとセットにして求めたことがある。

 今回の提案は、菅首相の就任1カ月のタイミングで浮上した。

 受信料の水準について不断の見直しは必要だ。

 だが、いくら値下げをしても、公共放送としてのあるべき姿を自ら示し、国民に納得感を持ってもらえなければ、義務化への理解はとうてい得られない。

 かんぽ生命保険の不正を追及した番組を巡っては、NHK経営委員会の個別番組への介入の疑いが持ち上がったが、情報公開請求に誠実に対応しなかった。

 まずはNHKに対する不信感の払拭(ふっしょく)に努めるべきだ。

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