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限界集落「自治力」で復興 昨年の台風19号、孤立した宮城・筆甫地区 全戸訪問、情報収集「震災の経験生きる」

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 2019年の台風19号による被災から、住民たちが力を合わせて復興へと向かう地域がある。宮城県丸森町の山あいにある筆甫(ひっぽ)地区。人口510人(9月末現在)の過半数が65歳以上という限界集落だ。被災直後、住民らは全戸訪問で一人一人の健康状態をチェックし、自力で道路も仮復旧させた。全国から注目を集めた共助の背景には、東日本大震災の経験を踏まえて培ってきた「自治力」があった。

交通網、見る影なく

 「ここは『陸の孤島』になったんです」。住民による自治組織「筆甫地区振興連絡協議会」の吉沢武志事務局長(43)は町の地図を広げると、台風19号の影響による土砂崩れや倒木で通行止めになった道路に次々とバツ印を付けた。町の中心部や、隣接する福島県へ抜ける交通網も寸断され、地区は孤立状態に陥った。

 8世帯が暮らす鷲ノ平(わしのひら)集落に住む引地国夫さん(73)は、台風が通過した翌日の朝、自宅前に広がる光景にぼうぜんとした。電柱は倒壊し、田んぼの稲もなぎ倒され、巨大な石が転がる道路は見る影もない惨状だった。「役場も冠水して助けを呼べない。自分たちでやるしかない」。隣の集落の住民と重機を動かし、通れるようにした。別の場所でも消防団員らが、土砂で塞がれた県境の道を開通させた。

 一方、避難所となった「まちづくりセンター」では、民生委員の引地輝子さん(70)の元に糖尿病を患う男性が助けを求めにきた。「自宅に置き忘れた注射針が土砂で流された」。別の患者から針を借りて対処したものの、吉沢さんは薬の重要性に気付く。地区内には病院がなく、遠方までバスで通う高齢者もいる。「他にも薬が切れかかっている人がいるのでは」

 すぐに消防団員らが全戸を訪問し、世帯ごとの食料備蓄や健康状態など約20項目にわたる情報を収集。「住民の『大丈夫』の言葉も本当かは分からない。何に困っているのか、直接確認しなければ」と吉沢さん。14年に地区が大雪に見舞われた際、電話で住民の安否確認をしたが、支援の行き届かない孤立集落が生まれる出来事があった。その苦い経験が全戸訪問につながった。ここまで自治力を発揮できたのはなぜか。吉沢さんは「経験と実績だと思う」と振り返る。その最たるものが東日本大震災だった。

 東京電力福島第1原発から北西に約50キロ離れたこの地区でも、風評被害から農産物が出荷できなくなった。しかし、宮城県は津波で被災したとの印象が強い。原発のある福島県との支援格差もあり、住民には「丸森は見捨てられた」との思いがあった。毎年数組いた移住者は全員離れた。

衰退食い止めたい

 指をくわえて見ているだけでは衰退の一途をたどる――。役場のかわりに証明書発行などの窓口業務を担い、「買い物弱者」の解消に向けて食料品の移動販売をし、廃業予定だったガソリンスタンドの事業を継承した……。台風被害でもこの経験が生きたという。地域の力で危機に立ち向かった姿が話題となり、各地の社会福祉協議会などから講演の依頼が舞い込んだ。中央大の中沢秀雄教授(地域社会学)は「筆甫には、あらゆる仕事を自治でこなす、かつての『ムラ』の生命力が残っている。普段から住民の困り事を把握し、みんなで解決している」と評価する。

 地区では今も台風の爪痕が残る。町中心部につながる道路は陥没が目立ち、移動距離も倍に。通勤や通院が不便になったなどの理由で、20年9月までの5カ月で15人が町を出た。それでも吉沢さんは希望を失っていない。「ここには、地域のことは『自分たちで何とかしよう』という自治の心がある。みんなで乗り越えたい」【神内亜実】

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