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泥に泥に泥に泥に気をつけて、とその人は言ったのだと彼女は断言した。
「泥に泥に泥に泥に」? 4度も?
すると彼女の目がいたずらっ子のように輝く。
4度もくり返したのは、泥がどれほど粘り強いか表現したかったのかなあ。
そう言うと彼女は笑い出した。
椅子に座った彼女は頭をうしろに投げるようにして体をのけぞらせていたけれど、高笑いの出所は彼女の体からではなかった。
背後から聞こえた気がして振り返ったが、そこには暗い暖炉があるのみ。視線を元に戻すと、笑った気配などまるで感じさせない、凪(な)いだ水面のような無表情を浮かべたまま、彼女は机の上のカップに手を伸ばし、すっかり冷めた紅茶をすすった。
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