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あしたに、ちゃれんじ

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コロナ時代の「食」支えたい 飲食店やワイナリー展開・藤丸智史さん=中川悠 /大阪

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「島之内フジマル醸造所」(大阪市中央区)にはワイナリーとレストランを併設。「今年のワイン造りも無事に終えました」と藤丸さん 拡大
「島之内フジマル醸造所」(大阪市中央区)にはワイナリーとレストランを併設。「今年のワイン造りも無事に終えました」と藤丸さん

 「団体向けの部屋を改装して冷凍加工ができる工房を造りました!」。明るい声で話してくれたのは、「FUJIMARU 東心斎橋店」(大阪市中央区)など大阪、東京でイタリア料理を中心とした飲食店を経営する「パピーユ」の代表取締役、藤丸智史さん(44)だ。新型コロナウイルスの影響で自粛期間はほぼ全ての店舗を閉め、緊急事態宣言の解除後は客席数を減らして営業を再開。団体利用がゼロになった東心斎橋店の部屋を活用して今年6月、冷凍食品などを作る工房をスタートさせた。「ウィズコロナ」時代を見据え、新たな手を打ち続けている。

 パピーユでは、上質なワインや全国の食材を使ったイタリア料理を各店舗で提供。ただ、取り組みはそれだけではない。120年を超える歴史を誇り、かつて生産量も全国トップクラスだった大阪のブドウ作りを応援しようと、2010年から柏原市の耕作放棄地でブドウ栽培を始め、現在は2ヘクタールを超える農地を管理している。さらに13年には念願のワイナリー(醸造所)を大阪市中央区・島之内に造り、毎年一定量のワインを製造してきた。

 食品工房は来年に新設する予定だったが、コロナ禍を受けて計画を前倒しし、4月には開設に着手した。

 店舗の再開後、テークアウトを中心にしたメニュー作りに励んだ。飲食店からの需要が減って困窮する肉や野菜の生産農家を支える思いもあった。ただ、テークアウトは届けられる範囲が狭い。「冷凍技術を使えばもっと遠方まで地域の食材を届けられる」と藤丸さん。工房の加工技術は新商品の開発にもつながっている。「ブドウの搾りかすを使った新しいパスタが生まれました」。ワイン製造の際に出る搾りかすは、肥料にされることが多い。藤丸さんは廃棄物の削減も念頭に、フリーズドライにしてパスタに練りこんでみたところ、とても風味よくできあがったという。

 18歳からソムリエとして修業を重ねた藤丸さんは20代の頃、追い求めるワインに出会うため、約2年をかけてヨーロッパやオセアニアの生産地を旅した。短い時間の中でも、ワイナリーだけでなく、人生をかけて食に向き合う職人とたくさん会うことができた。「環境にも配慮を怠らない。高い志を持つ人たちが手がける食の逸品は、ワインと同じようにその土地に人をいざなう磁石のようだった」。藤丸さんの興味はワインだけにとどまらず、食品全体に広がった。「僕たちは農業などの食の生産者と消費者をつなげる役」。人生の指針が決まった。

 現在、藤丸さんのもとで働くスタッフは50人を超す。新型コロナによる飲食店への影響は想像以上に大きく、緊急事態宣言時には会社を守るために奔走した。「スタッフも生産者も。良いものを提供するためにもがいている人を応援したい」。藤丸さんの信念は揺るがない。全国を飛び回って同じ志を持つ生産者と出会い、まだ見ぬ消費者に食の魅力を伝えるために新しい知恵を絞っている。<次回は12月11日掲載予定>


 ■人物略歴

中川悠(なかがわ・はるか)さん

 1978年、兵庫県伊丹市生まれ。NPO法人チュラキューブ代表理事。情報誌編集の経験を生かし「編集」の発想で社会課題の解決策を探る「イシューキュレーター」と名乗る。福祉から農業、漁業、伝統産業の支援など活動の幅を広げている。

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