英国の欧州連合(EU)離脱に伴う両者の通商交渉が難航している。決裂すると、これまでゼロだった関税が急に復活し、双方の経済を大混乱させるのは必至だ。
新型コロナウイルスの感染拡大で大幅に悪化した世界経済をさらに落ち込ませる恐れがある。危機回避に全力を挙げるべきだ。
英国は今年1月にEUを離脱した。ただ年末までは加盟国と同等に扱われる移行期間とされ、自由貿易協定を結ぶ交渉をしてきた。
双方の議会による批准手続きを考えると、遅くとも来月中に合意する必要がある。時間切れが迫っているのに対立が収まる気配はない。不信が根深いからだろう。
争点の一つは企業向け補助金だ。英国は思い通りに使いたい考えだが、EUは加盟国と同じでなければ不公平と主張している。
好漁場で知られる英国海域の漁業権も難題だ。フランスなどが従来通りの操業を求めているのに対し、英国は主権回復を掲げて、自国優先を譲らない。
ジョンソン英首相の強硬姿勢も事態をこじらせている。離脱の際に難産の末にまとめた北アイルランド国境問題の解決策について、通商交渉が不調に終われば、ほごにする方針を唐突に打ち出し、EUの強い反発を招いた。
物別れも辞さない構えでEUを揺さぶり、譲歩を引き出す瀬戸際戦術との見方がある。そうだとしても、不信を増幅させる手法はやめるべきだ。
両者とも大局的観点から歩み寄ることが欠かせない。
欧州の自動車業界は決裂時の損失が約13兆円にも上ると試算している。投資先としての魅力が失われ、英国の国際金融街シティーの地位も低下しかねない。決裂が国益を損なうのは明らかだ。
英国とEUは先進国として自由貿易を推進する国際的な協調体制を支えてきた。離脱後も協調を保つのは国際社会への責務だ。
通商交渉は短期間でまとめるのが難しい。ましてコロナ禍で交渉が制約されている。打開のめどが立たなければ、双方は期限の延長を検討すべきだろう。
交渉が決裂すると、欧州に進出する多くの日本企業への悪影響も避けられない。日本政府は合意の重要性を説いていく必要がある。