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半沢直樹の敵役演じた劇作家は見た 真剣勝負の現場に宿る「お化け番組」の底力

ドラマ「半沢直樹」に出演した劇作家の佃典彦さん=大阪市北区で2020年10月14日、山田尚弘撮影

 俳優の堺雅人さんが巨悪に挑む銀行マンを熱く演じたTBS系日曜劇場「半沢直樹」(7~9月)は、最終回の視聴率が30%を超え、社会現象とまでいわれるブームを巻き起こした。歌舞伎、ミュージカル、コントなど多彩な分野から集まった俳優陣も注目の的だったが、その中に地域で劇団を率いる演劇人がいた。半沢の敵役を演じた「B級遊撃隊」の佃典彦さんと「MONO」の土田英生さん。ともに愛知県出身で、現在はそれぞれ名古屋、京都が拠点。実力派の劇作家・演出家でもある2人が知られざる舞台裏を明かし、玄人目線で「半沢」人気の秘密を読み解いた。【畑律江、関雄輔】

「新手の詐欺?」突然の依頼

 ――出演の経緯をお聞かせください。

 土田 プロデューサーの伊與田(英徳)さんは以前からMONOの舞台を見に来てくださっていて、テレビドラマの脚本の仕事でご一緒したこともありました。今回も脚本の仕事かと思ったら、「役者で」ということで、びっくりしました。自分の書いたドラマやNHKが大阪で作った朝ドラ(連続テレビ小説)に出演したことはありますが、「半沢直樹」の7年ぶりの続編を作るとなれば、芸能事務所などからの売り込みもすごかったはず。うれしいというより、「本当?」「俺が出るの?」という感じでした。

 佃 小劇場の俳優はたくさん出ていましたが、劇作家は僕たち2人だけでしょうか。伊與田さんとは30年くらい前に名古屋で仕事をしたことがありますが、その後は会う機会がありませんでした。昨年末に見知らぬ番号から携帯電話に着信があり、「半沢」の仕事と聞いて新手の詐欺かと思いました(笑い)。僕は、脚本ではなく役者で、と聞いて実はほっとしたんです。出番もちょっとだけだろうと。ただその時は別の舞台の仕事とスケジュールが合わず、いったん断りました。その後、3月ごろにまた電話があり、新型コロナウイルスの影響で舞台が延期になっていたのでお受けしました。その時に、東京中央銀行審査部次長の曾根崎雄也役と聞き、「あ、名前がある役なんだ」と思いました。それで原作を改めて読んだら、出番も多く、しかも大学の元相撲部の巨漢という設定。戸惑いました。

 ――キャスティングの妙は「半沢」の魅力の一つです。

 佃 伊與田さんに電話したら、「いやー、佃さんには昔お世話になりましたから」しか言わなくて、キャスティングの本当の理由は教えてくれませんでした。原作と全然タイプが違うけど僕で大丈夫かと聞いたら、「ドラマと原作は違いますから大丈夫ですよ、えへへへ」って。どこの馬の骨とも分からない、東京のテレビに出たこともない僕に曾根崎役をやらせることに、どこからも異論が出なかったのならすごいですよね。

 土田 知名度などで考えれば、僕や佃さんを起用するメリットはないわけですよ。昔からの知り合いだからと選ぶにも「半沢」は大きすぎる企画です。何かしらの勝算があって「この役にはこの人」とフラットに選んだのだろうと思います。(人気俳優中心など)キャスティング主導のドラマが多い中、作品に合うと思う役者を探し、どこにもそんたくせずに役を付けたのは、「半沢」が受けた要因の一つかなと思います。

台本は当日、カメラは回しっぱなし

 ――佃さんは帝国航空再建を巡って銀行内で半沢と敵対する曾根崎、土田さんは企業買収に絡んで半沢を翻弄(ほんろう)する大手IT企業「電脳雑伎集団」の平山一正社長を演じました。役作りについてお聞かせください。

 土田 平山社長は、僕が原作を読んで抱いたイメージとはちょっと違いました。IT企業の社長で、お金のことに鼻が利く人というイメージはありましたが、あそこまで不遜で、黒い格好をしているとは(笑い)。(撮影前の)読み合わせで「できる人」というイメージで張り切って読んだら、演出の福澤克雄監督から全然違うと言われてしまいました。「もっと何考えてるか分からん感じで」と。久しぶりに10代の頃に戻った心境になって、別の日に(パートナー役の)南野陽子さんと一緒にけいこしてもらいました。撮影は3月の終わりごろに始まり、(新型コロナの影響で)2カ月くらい中断。外出自粛の間に太って、黒のパンツがものすごく苦しくなってしまいました。

 佃 監督から具体的な役作りの指示はありませんでしたね。「この役はこうなので」というより、「ここはもっと早口で」「もっと怒りの表情を」といった演出が多かったと思います。僕は今回に限らず、髪形で演技が変わるんです。オールバックでスーツを着たら自然とあんな感じになりました。あと僕は名古屋弁なので、イントネーションを直すため、撮影が終わる夜の10時くらいから夜中の2時くらいまで、次の日のせりふを東京在住の劇団員に電話でけいこしてもらいました。劇団員は大変だったと思うけど、「うちのボスに恥かかせるわけにはいかない」という思いだったようです(笑い)。

 ――「半沢」の撮影や演出の特徴は何でしょうか。

 土田 一般にドラマの撮影はカメラを何台か同時に回し、一人一人のアップから引きの構図まで複数のアングルを一度に撮ることが多いのですが、「半沢」はカメラの位置を変えながら何度も撮り直し、その時、画面に映らない役者も全員ちゃんと芝居をするんです。誰かがせりふを間違えてもカメラは止めず、ワンシーンは必ず最後まで通す。これは演劇の本番に近く、とてもぜいたくな撮り方だと思いました。

 佃 まずびっくりしたのは、台本が事前に送られてきた時、「決定稿ですが、読まないでください」と言われたことです。「どういうこと?」と思ったら、その後に、福澤監督が練り直した「監督割」という台本が送られてきました。それを覚えて現場に入ったら、今度は楽屋前に「本日割」という台本が置かれている。見ると、せりふがカットされていたり、追加されていたりするんです。最初送られてきた台本は、いわば記念品。それにしても(主演の)堺雅人さんは、あれだけの量のせりふを1回もかまないし、コロナの影響で撮影するシーンが当日変わることもあったけれど、よく対応していた。恐れ入りました。

 ――キャストには舞台俳優が多かったですね。

 佃 あの現場は舞台をやっている人じゃないとなかなか大変だと思います。現場では、まずドライリハーサルというのがあって、立ち位置、動線などを決め、せりふ付きで1回合わせます。それで問題がなければ、「半沢」は次がいきなり本番なんです。カメラリハーサルやランスルー(通しげいこ)などがなく、いきなり本番。しかも途中でカメラを止めず、頭から終わりまで通して何回もやる。

 土田 カメラにどう映るかだけではなく、その場での相手役とのやり取りが弾むかどうかということが非常に大きいんですね。舞台では常にそれを意識するので、それが舞台役者が多く使われていることの理由かと思います。

 佃 曾根崎が半沢と大和田常務に挟まれ、(歌舞伎の口調で詰め寄られる)「サァサァサァ」という場面は、最初は(大和田役の)香川(照之)さんだけのせりふだったんです。撮り始めて3回目くらいまでは香川さん一人でやっていましたが、堺さんが「僕も言ってみたい」と言い、打ち合わせも練習もなく、次の本番からいきなりあんな形でやりだしたんです。両側から僕が責められる動きを見て、監督が正面のカットも撮りましょう…

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関雄輔

2007年入社。福島支局、南相馬通信部を経て、12年1月から大阪本社学芸部。現在は舞台芸術と文芸を担当。学生時代はバックパッカーとして40カ国を旅した。

畑律江

1980年入社。神戸支局、大阪本社学芸部、地域面・夕刊特集版編集室などを経て2013年より大阪本社学芸部専門編集委員(舞台芸術担当)。地域と舞台芸術のかかわりに関心を持ち、古典芸能から小劇場まで年間約200本の舞台を観劇、リポートや評を執筆している。紙面ではコラム「劇場のピクニック」を連載中。

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