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大阪市を四つの自治体に分割した場合、標準的な行政サービスを実施するために毎年必要なコスト「基準財政需要額」の合計が、現在よりも約218億円増えることが市財政局の試算で明らかになった。人口を4等分した条件での試算だが、結果が表面化するのは初めて。一方、市を4特別区に再編する「大阪都構想」での収入合計は市単体と変わらず、行政コストが同様に増えれば特別区の収支悪化が予想される。特別区の財政は11月1日投開票の住民投票でも大きな争点で、判断材料になりそうだ。
スケールメリット失う
国の地方交付税制度は、自治体が一定水準の行政サービスを維持できるよう、基準財政需要額から基準財政収入額(地方税収を4分の3にするなどして算定)を引いて不足分を国が補う仕組みだ。税収の多い東京都は交付税をもらわずに財政運営できるが、大阪市のように交付税に頼る自治体は「交付団体」と呼ばれる。
基準財政需要額は、「社会福祉費」や「商工行政費」など国が定めた分野別の単価に、人口や世帯数などの数と、地域事情に応じた複数の補正係数を掛けて算出する。総務省は「行政事務は一般的にスケールメリットが働き、規模が大きくなるほど経費が割安になる傾向がある」という考えで、人口が多いほど需要額を抑えられる仕組み。
2015年の国勢調査時に269万人だった大阪市の20年度の基準財政需要額は6940億円。市財政局は毎日新聞の取材に対し、人口を4等分して約67万3000人ずつに分割した需要額について、合計すると218億円多い7158億円との試算を示した。都構想で設置される特別区は、現在の地方交付税制度では想定されていない自治体のため、人口規模以外は現在と同じ条件で計算した。
都構想は、市を廃止し、人口60万~75万人の4特別区に分割する制度で、市財政局によると、人口は若干異なるが、今回の試算と同様にスケールメリットは失われ、行政コストは上がることが想定されるという。
制度案を議論する計37回の法定協議会では、特別区の財政見通しを議論する資料として、4特別区の基準財政需要額を示すよう自民党が要望した。だが、事務作業を担う府市の共同部署「副首都推進局」は試算してこなかった。担当者は「職員が増えることによる費用など必要な数字は示している。法定協からは試算の指示がなかった」と理由を説明する。
特別区の交付税は、地方交付税法や都構想の根拠法となる大都市地域特別区設置法に基づいて、4特別区を一つの市町村とみなして計算する。このため交付税の合計は現在の大阪市と変わらず、行政コストだけが増加することになる。制度案では、消防などの事務が府に移管されるため、行政コストの差額は218億円からは縮小し、最終的には200億円程度になるとみられる。
市財政局の担当者は「都構想の4特別区の行政コストが今回の試算と同額になるとは限らないが、デメリットの一つの目安になる。財源不足が生じれば、行政サービスの低下につながる恐れもある」と説明している。【矢追健介】
推進局、法定協で示さず 賛成、反対両派の議論平行線
大阪市を分割した四つの自治体の行政コストの合計を現状と比較した市財政局の試算は、都構想が実現した場合に誕生する特別区の財政運営にも影響を与えるとみられる。「基準財政需要額」と呼ばれるコストは、都構想の制度案をつくる法定協議会でも自民党が今回の試算に近い数字を示し、算出を要請していたが、府市の共同部署「副首都推進局」は「法定協からの指示はなかった」として出さなかった経緯がある。
「特別区にすると行政コストが200億円ぐらい増大する。地方交付税は増額されず、財源不足が生じる恐れがある」。2019年4月の知事・市長のダブル選の結果を受けて再開した同年9月の法定協。都構想に反対する自民の川嶋広稔市議は、独自で試算した数字を根拠に特別区の財政運営に懸念を示し、重点的に議論するよう今井豊会長に訴えた。
これに対し、大阪維新の会の守島正市議は「我々は特別区長のマネジメントなどでコストを削減するという前提に立っている。交付税の総額が変わらなくても、コスト圧縮で自主財源ができる」と述べ、交付税は増えなくても、都構想にはそれを上回る効果があると反論。維新側は川嶋市議に、計算式を示して具体的に指摘するよう求めた。
法定協に関する事務作業は、府と市が共同設置する副首都推進局が担ってきた。川嶋市議は「知事、市長がこの場で提案したら職員が総動員でやってくれるが我々はそういうこともできない。正しい数字に基づいて制度論の議論ができればと思っているので、よろしくお願いします」と行政として計算するよう求めた。
今井会長は「協定書(制度案)をとりまとめるうえで必要となる資料の作成を事務局に指示したい」と応じたが、推進局が作成することはなかった。
基本的方向性の採決を控えた同年12月の法定協で、改めて行政コストが増えることへの懸念を示した川嶋市議は「今更遅いと言われるが、検証するための資料を出してくれと最初から言っている。(行政側が)出してくれないのは問題だ」と指摘した。
だが、維新の横山英幸府議は「行政コストが200億円増えると言われても根拠がないから分からない。過度な不安でしかなく、建設的な提案になっていない」と一蹴。松井一郎市長も「府と市で一元化になることで新たな財源を生み出してきている。そもそも論に戻るから一々言う必要はない」などと答えており、かみ合わないまま法定協での議論が終わった。
法定協で決定した制度案を審査した総務省は今年7月、「特段の意見はない」と承認した。だが、毎日新聞の取材に「特別区の財政が成り立つかどうかについて、お墨付きを与えるものではない」と説明。特別区の財政を巡っては、賛成派、反対派によって大きく評価が分かれている。【矢追健介】
増えぬ収入、サービス低下も
立命館大の平岡和久教授(地方財政学)の話 大都市を分割するとスケールメリットが失われて当然、行政コストは上がる。国が定めたルールに基づく標準的な行政コストである基準財政需要額はその目安となる。「都構想」では行政コストは上がるのに交付税などを含めた基準となる収入は増えない。このため、行政サービスが低下する恐れがある。
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