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新宮市街の一画に、浮島の森という、時間の底にいかりを下ろしたような場所がある。沼地の中にみどりの島が浮かんでいて、水位の変化によって、文字どおり島全体がわずかながら浮き沈みするそうである。
この島の地盤は泥炭で出来ており、かつてこの辺りが湿地だった名残という。湿原の植物が朽ちて堆積(たいせき)したものが泥炭だそうで、その下の水の層の上に、この島は浮いているらしい。
薄ら寒い森の中の細板を渡した歩道の先に、蛇(じゃ)の穴(がま)という底なしの井戸がある。ここには大蛇に呑(の)み込まれた若い娘の話がまつわっていて、江戸中期の小説家、上田秋成がこれをもとに『雨月物語』の「蛇性(じゃせい)の婬(いん)」を書いたとされている。
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