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毎日ユニバーサル委員会 公開シンポ「ともに。~私たちにできること」(その2止)

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 ◆第8回座談会 明るい未来を信じて

河合氏 パラ教育に力を/鈴木氏 機運醸成の年に/田中氏 全員が主役に

川内氏 新たな関係構築/河本氏 前向きに挑戦

 小松主筆(司会) 新型コロナウイルスの感染拡大により、東京大会は1年延期が決まりました。改めて延期された大会の意義をどうお考えですか。

河井純一氏 拡大
河井純一氏

 河合純一委員 今年1月に日本パラリンピック委員会(JPC)の委員長に就任した時は、まさかこういう状況になるとは思いませんでした。しかし、パラリンピックの持つ意義や魅力が変化するわけではありません。アスリートが最高のパフォーマンスを発揮する場を準備し、それを見た方々や携わった方々が何かを感じ、次の行動につなげていくことが大きな魅力。これは不変です。

 JPCとしては、この1年でパラリンピック教育に力を入れていくべきだと考えています。国際パラリンピック委員会(IPC)公認教材「I′mPOSSIBLE」を開発し、全国の小中高、特別支援学校に届けています。パラリンピックに関わるさまざまな社会事象を知って考えることで、自分たちが生きていく上でのヒントを得るきっかけになる。コロナ禍で学校現場が大変忙しい状況ですが、パラリンピック教育を一人でも多くの子どもに届ける時間をいただけたと感じています。

鈴木大地氏 拡大
鈴木大地氏

 鈴木大地委員 大会が1年延びたことで選手のメンタルが大いに問われています。1年間ずっと緊張するのも難しく、“どよーん”とした気持ちになる選手もいると思います。我々としてはどの選手に対してもできるだけ激励し、刺激を与えながら1年後によい状態で大会を迎えてもらうことが必要。私もポジティブ(前向き)に考えたいです。大会を注目してもらえる期間が1年延びたと捉え、機運を醸成していく1年にしなければならないと思います。

田中里沙氏 拡大
田中里沙氏

 田中里沙委員 初めて取り組むことだからこそ、理想を実現すべく力を合わせて工夫することに意味があります。うまくいかなかったらどうするのか、誰が責任を取るのかということではなく、未来をひらく挑戦に集中したい。選手をはじめすべての人が主役になるのが今大会の趣旨です。延期により多くの課題が出ましたが、ともに考え、乗り越える大会として、得られるものは大きいと思います。

 小松主筆 車いす利用者のお立場で、1年延期が共生社会に与える影響をどう見ていますか。

川内美彦氏 拡大
川内美彦氏

 川内美彦委員 耳の聞こえない方にとってはお店の人の口元がマスクで見えず、何を言われているか読み取れない場合があり、目の不自由な方は、人が街を歩かなくなったことで前を歩く人の靴音を追って歩けなくなりました。それまでは環境に合わせて使いこなしていたことが、環境自体が変わったことで生活は激変しました。ただ、ハードの整備では1年延期がよかった面もあると思います。大会に向けてハード面はかなり整ってきましたが、それをきちんと使えるかは別の話。整備されたハードをきちんと使えるようにすることや、どう平等に使うかに目が向けられてきたことは、ポジティブな点だと思います。

 小松主筆 コロナがビジネスに与える影響はどうでしょう。

河本宏子氏 拡大
河本宏子氏

 河本宏子委員 航空業界だけでなく、交通輸送機関、観光業、飲食業含めて多くの企業が打撃を受けています。その中で、経済活動と感染拡大防止の両輪を回すのが課題です。あらゆる業界がさまざまなルールを作っていますが、この時に大事なのは、サービスを提供する側、受ける側が一緒になって新しい様式を作り上げること。まさにこれも共生の観点だと思います。そして新しいルールの中でのサービスや商品がよりよいものになれば、企業の成長につながります。次の新しい生活に向けて一歩踏み出したという点で意義があったのではないでしょうか。

 小松主筆 コロナによって分断、格差が広がっているとも言われる中で、共生社会を築くためにはどのような課題があるのでしょうか。

 川内委員 障害のある方々は人との関係性の中で生きています。ある災害の時には、障害がある人たちが中心になりコミュニティーに支援を提供できたという実例があります。弱さ故の強さが発揮されたと思います。コロナにより、人とのつながりを見直すチャンスができました。コロナ前とは違った新たな関係性を築けるのではと、少し楽天的に見ています。

 小松主筆 ビジネスの現場ではコロナとどう共存していますか。

 河本委員 今まで覆われていたものが見える化され、課題を迅速に解決しようという流れも見えてきました。一つの例はリモートワーク。新たな選択肢として定着しつつあり、今では、いる場所にとらわれない働き方として進化しています。コロナとの共存を前向きに捉えようというチャレンジが企業でも続いています。

 田中委員 コロナにより、生活や仕事の中で何が大切かを考える機会が増えました。それぞれの人や組織が自分の特技を通して役割を果たそう、つながろう、持てる経営資源に磨きをかけようという流れも出ています。魅力的な新事業やサービスが生まれる好機でもあり、それを最大限生かしていきたい。私どもは研究機関として、人材育成や産学連携から貢献したいと思っています。

 小松主筆 スポーツ界への影響をどのようにお考えですか。

 鈴木委員 多くの大会やイベントが中止・延期になり、大きな影響が出ました。そういう中で錦織圭選手や八村塁選手がオンラインゲームの「eスポーツ」の大会に参加して話題になりました。これまでeスポーツは「スポーツかな?」と思っていましたが、実際のスポーツの認知度を上げ、賞金も懸かるようになりました。コロナ時代のスポーツとして、考えを改めました。障害がある人にとっては立派なスポーツだという話もあります。スポーツをより多面的に考えるきっかけになりました。

 小松主筆 最後にまとめをお願いします。

 河合委員 誰もがピンチの状況です。私の好きな言葉は「ピンチは絶好のチャンス」。この先に前向きで明るい未来があると信じて進めるかどうかが、改めて問われています。JPCとしては「超えろ、みんなで。」というスローガンを掲げました。コロナ禍で大変な状況を皆さんと乗り越え、選手たちは自分たちの限界を超える。そして、社会のさまざまなバリアーさえも越えて、前向きな社会を作る原動力を生み出すために、来年の大会に向けて全力を注ぐつもりです。

 小松主筆 コロナの状況は見通せませんが、1年の延期という試練を乗り越えた先に、共生社会につながる大会が開催できると思います。あらゆる人が暮らしやすい寛容な社会を築くというのは毎日新聞の理念です。本当の意味での成熟社会に向けた報道、そして、アスリートの皆さんを応援する新聞を作っていきたいです。


 当日のライブ映像は11月13日まで、毎日新聞ニュースサイトでご覧になれます。


平和や人権発 信成澤廣修・文京区長あいさつ

 本区は東京2020大会のドイツのホストタウンとして活動しています。難民の問題への関心を深めてもらおうと、難民選手団のホストタウンになるべく準備を進めています。

 また、子どもが記者となる「文京区オリンピック・パラリンピックこども新聞」を発行し、スポーツの素晴らしさだけでなく、平和や人権、男女平等などさまざまな問題も取材して記事にしています。大会を機に子どもたちならではのレガシーにしたいと努力しています。


 2020年東京オリンピック・パラリンピックを控え、毎日新聞社は「共生」をキーワードにバリアーゼロ社会を目指すキャンペーン「ともに2020」を16年12月に始めた。「毎日ユニバーサル委員会」は翌年2月に設置。5人の有識者と小松浩主筆を加えた6人で構成し、座談会でその時々のテーマに沿って議論している。これまでに、駅のホームドア設置や障害者と健常者がともに学ぶインクルーシブ教育といったテーマを扱った。委員からの提言は今後の活動に生かし、内容は特集面で公表する。


 ■人物略歴

事業構想大学院大学学長・田中里沙(たなか・りさ)氏

 雑誌「宣伝会議」取締役編集室長などを経て2016年4月から現職。政府・行政の各種委員、コメンテーターとしても活躍。53歳。


 ■人物略歴

初代スポーツ庁長官・鈴木大地(すずき・だいち)氏

 1988年ソウル五輪競泳男子100メートル背泳ぎ金メダル。2020年9月まで初代スポーツ庁長官。現在は順天堂大特任教授。53歳。


 ■人物略歴

日本パラリンピック委員会委員長・河合純一(かわい・じゅんいち)氏

 先天的な弱視で15歳の時に全盲になり、パラリンピック競泳で金5個を含む計21個のメダルを獲得。2020年1月から現職。45歳。


 ■人物略歴

ANA総合研究所会長・河本宏子(かわもと・ひろこ)氏

 同志社大卒。1979年全日本空輸に入社し客室乗務員を務める。取締役専務執行役員などを歴任。2020年4月から現職。63歳。


 ■人物略歴

東洋大客員研究員・川内美彦(かわうち・よしひこ)氏

 横浜国立大大学院修了。工学博士、1級建築士。工業高専在学中にスポーツ事故がもとで車いす生活に。67歳。

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