毎日新聞
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「女・男の気持ち」(2020年10月22~28日、東京・大阪・西部3本社版計19本)から選んだ「今週の気持ち」は、東京本社版10月28日掲載の投稿です。
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<今週の気持ち>
柿の季節 東京都江戸川区・高橋愛子さん(主婦・73歳)
今年も柿の季節がやってきました。このころになると思い出すことがあります。
母は生前、決して柿を口にしませんでした。「柿は嫌い」の一点張りで、私もその言葉をずっと信じ込んでいました。「甘くてこんなにおいしいのに、なぜ食べないのか」と思ったこともありましたが、あまり深く考えることもなく年月が過ぎました。
ところがあるとき、私が柿を食べているのを見て、老いた母がつぶやいたのです。その言葉に私はハッとしました。「もう柿の味は忘れたね」
母は不幸な結婚をし、一人娘の私を若いころから女手一つで育てなければなりませんでした。伯父夫婦の協力があったとはいえ、ただでさえ戦後の混乱期、必死だったことでしょう。
何としても娘のために、自分自身が健康で長生きをしなければ、という一心だったと思います。そのために、好物だった柿を断ったのだと思い至りました。私は聞こえなかったふりをしましたが、ありがたい親の気持ちが心にしみました。
「柿断ち」のおかげでしょうか。母は105歳の天寿を全うして一昨年、満開の桜の花とともに旅立ちました。
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<担当記者より>
お茶、コーヒーやお酒、甘いものなど特定の食べ物を我慢する「○○断ち」は、願掛けの一種でしょうか。試した方もいらっしゃるかと思いますが、70年近くも続けた話は初めて読みました。
投稿者の高橋さんに伺うと、お母様の「柿断ち」に気がついたのは10年ほど前のこと。酸っぱい食べ物が嫌いで、甘いものは大好き。「ほかの果物は何でも食べるのに、柿だけを口にしないのは変だな、と思っていたのですが」。お母様の強い思いに触れ、言葉が出なかったそうです。
母が娘を思う気持ち、その真実を知ったときの高橋さんの気持ちがともに伝わり、担当記者も胸が熱くなりました。みなさんからのコメントもお待ちしています。コメントはこちらからどうぞ。
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