安倍晋三前政権で発足した、官僚の人事を一元管理する「内閣人事局」の制度が導入されて6年を迎えた。かつては「最強官庁」と呼ばれた財務省も、今や首相官邸主導の下で影響力の低下が著しい。元財務官僚で第1次安倍内閣以降の公務員制度改革に携わった田中秀明・明治大公共政策大学院教授(59)は、幹部公務員の任命に客観的な指標がない中で、「政治任用」の色彩が強まる現状に警鐘を鳴らす。日本学術会議の問題にも通底する「官邸主導」人事の弊害や課題は何か。【聞き手・竹地広憲】
第1次安倍内閣は2007年6月、国家公務員法などを改正し、能力実績主義を徹底するための新たな人事評価制度、各省による再就職あっせん禁止などの再就職規制の見直しを行った。更なる改革は福田内閣に引き継がれ、08年に国家公務員制度改革基本法が成立する。これを具体化するための国家公務員法の改正は、福田・麻生内閣や民主党政権では頓挫したが、第2次安倍内閣で実現した。14年の公務員制度改革で、審議官以上を対象とする幹部公務員制度が導入され、「内閣人事局」が設置された。
私は財務省を休職して大学で研究をしていた08年、当時の渡辺喜美公務員制度改革担当相に呼ばれて公務員制度改革の検討会に加わった。検討会は、ポストごとに能力を有する3人程度の候補者を記載した名簿を作成し、その中から首相・官房長官・大臣が協議・選考する方式を提案した。しかし実際には、霞が関全体の約600人を掲載する名簿を作成し、その中から首相らが選ぶ形となった。この結果、ポストごとに候補者の能力をチェックするのではなく、首相や官房長官ら政治家側の「好き嫌い」で選ぶこともできるようになってしまった。大臣が自分の省庁の幹部人事を提案しても、官房長官らがそれを覆すことも生じた。また、省庁の人事担当者は、内閣人事局長(現在は杉田和博官房副長官が兼務)に、毎年夏の定例人事を事前に根回しするようになり、時には「猟官運動」のようにも見えた。能力や業績より、政治家に取り入る官僚が重用されるようにもなった。
公務員制度には大きく分けて二つのモデルがあ…
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