先立った愛息への思いを込めた未発表自作短編を朗読後、聴衆にあいさつする筒井康隆さん=2020年10月31日、松山市堀之内で松倉展人撮影

 「東海道戦争」「ベトナム観光公社」「七瀬ふたたび」――。旧別子山村(現、愛媛県新居浜市)出身のイラストレーター・真鍋博さん(1932~2000年)が多くの作品で挿絵や装丁を担当した作家・筒井康隆さん(86)が10月31日、時代を築いた盟友・真鍋さんの思い出を松山市内で語った。「亡き人と少しでも長く話していたい」。そんな思いを込めた“贈り物”も最後に用意されていた。【松倉展人】

憧れのイラストレーター 多くの筒井作品に彩り

 県美術館(松山市堀之内)で11月29日まで開いている「没後20年 真鍋博2020」の記念イベントとして、松山市民会館(同所)で講演した。

真鍋博さん=西村満さん撮影

 真鍋さんが初めて筒井作品の挿絵を担当したのは1964年12月号の「S―Fマガジン」(早川書房)。車に搭載された人工頭脳との愛を描いた短編「お紺昇天」だった。筒井さん30歳。既に星新一さん(1926~97年)らの作品の挿絵を精力的に発表していた真鍋さんは32歳。「自分もいつか真鍋さんに挿絵を描いてもらえる作家になりたいとずっと思っていた」。だから「初めてのS―Fマガジンへの登場で、真鍋さんに描いてもらった。飛び上がるほどうれしかった」という。

 さらに真鍋さんが週刊誌「サンデー毎日」に67~68年に連載した全国各地の鳥瞰(ちょうかん)図「真鍋博の鳥の眼(め)」(2019年に毎日新聞出版が復刻)にも触れ、「精密なことに驚かされます。人間わざではないと思いました」と絶賛。筒井さんの一人息子・伸輔さんも2、3歳のころから真鍋さんの絵が大好きになり、「鳥の眼」そっくりの絵を描き始めたことも明かした。

真鍋さんが全て手描きした「松山市」(一部)=「新装版真鍋博の鳥の眼 タイムトリップ日本60’s」より、毎日新聞出版提供

 真鍋さんが挿絵を担当した唯一の新聞小説で、日本SF大賞を受賞した筒井さんの「朝のガスパール」(91~92年、朝日新聞)で、真鍋さんは登場人物について「どういう人物ですか」とよく尋ねた。「(真鍋作品らしい)没個性的人物でいいと思ったが、いろんなキャラクターを描き分けたかったんだろう。私の息子(伸輔さん)という設定のキャラクターでは『息子さんは誰に似ている?』『強いて言えば(アイドルグループの)少年隊の東山(紀之)君』。真鍋さんは東山君を描いてこられた」と沸かせた。

 画家として活躍した伸輔さんがこの2月、食道がんのため51歳で先立ったことを講演の中で告げていた筒井さん。「真鍋さんについてのネタはほとんど出尽くしてしまいました。そんなことになるだろうと……」と笑いを誘ったうえで、伸輔さんとの別れ、その面影、夢での対話をつづった未発表の短編を最後に朗読した。

 この日は真鍋さんの20回目の命日。妻麗子さん(83)、長男真さん(60)も会場で聴き入った。真さんは「それがたとえ夢であっても、亡き人と少しでも長く話していたい。この世のことは『心配しなくて良い』と言ってやりたい……。私たちにとっても、没後20年を考える良い機会になりました」と、筒井さんへの深い感謝を語った。