排せつ、セックスも赤裸々に… 半身不随になった「もののけ姫」の「2度目の人生」

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自宅近くでユーチューブ用に動画撮影する渋谷真子さん=本人提供 拡大
自宅近くでユーチューブ用に動画撮影する渋谷真子さん=本人提供

 2年前、事故によって半身不随となりながら、車椅子の障害者としての日常を動画投稿サイトで明るく発信し続ける女性がいる。山形県鶴岡市在住のユーチューバー、渋谷真子さん(29)。障害者のタブーのように扱われる排せつやセックスについても包み隠さず語り、チャンネル登録者は約8万人に達した。「特別でも何でもない、2度目の人生」と語る彼女の強さはどこから生まれてくるのか。その思いを聞いた。【生野由佳/統合デジタル取材センター】

 10月下旬、待ち合わせた東京都内のホテル喫茶店に、渋谷さんは自らデザインしたロゴ入りのパーカと、パンツ姿で現れた。くるんとまつげをカールした目元が愛らしい。ほぼ毎月上京しており、今回はユーチューバーとしての打ち合わせのためだという。記者の目を見ながら、車いす生活の日常をはきはきと、時に笑い話を交えて説明する。「人並みに落ち込む日もあるけど、歩けないことを悩んでも仕方ありません。動画を投稿したり、講演したり、取材を受けたり。車いす生活になって、逆に忙しくなりました。今月の休みはゼロ日ですよ」。屈託なく笑う渋谷さんは、まず障害を負った経緯から語り始めた。

3メートルの高さから落下 取り出したスマートフォンで…

 渋谷さんの人生が急転したのは、会社員を辞め、鶴岡市内でかやぶき職人を営む父親の下で修業を始めたばかりの2018年7月だった。市内の民家で作業中、バランスを崩して約3メートルの高さの屋根から落下し、庭池の縁石に背中を強打したのだ。「その瞬間に、元通りの体には戻れないと直感しましたね」

 だが、泣き叫ぶわけではなく、すぐさまスマートフォンを取り出し、ピンチに陥った自分自身を撮影した。その後の「2度目の人生」につながっていく、渋谷さんならではの心の強さだ。もっとも、後からこのときの行動を「失敗した」と後悔することになるのだが……。

 すぐに救急搬送され、約7時間の緊急手術を受けた。その3日後、医師から半身不随を告げられる。胸椎(きょうつい)骨折で脊髄(せきずい)を傷つけ、へそあたりから下がまひし、動かなくなったのだ。ショックを受けた渋谷さんだったが、自暴自棄に陥ることはなかったという。「昔かたぎの職人の父親が『俺のせいだ』と自分を責めていると感じ、それは嫌だと思いました。職人は私が決めた道です。医学的に治療法がないことに悩んでも、時間がもったいないとも思いました」

屋根から転落し、第8胸椎(きょうつい)が損傷した。手術を終えた背中=渋谷真子さん提供 拡大
屋根から転落し、第8胸椎(きょうつい)が損傷した。手術を終えた背中=渋谷真子さん提供

 事故以前の生活は、いわゆる「イマドキ」の若者だった。長い髪を茶色に染め、海外旅行をしたり、東京に遊びに行って高級リムジンで友達とはしゃいだり、クラブで踊ったり。恋愛も自由に楽しんでいた。車いす生活になっても、その生活を変えようとは思わなかったが、そのための情報がほとんどないことに困惑したという。

 「車いす女子はどうやってオシャレをして恋愛を楽しみ、友人たちとの時間を過ごしているのか。その時間、排せつはどうしているのか。知りたいことがいっぱいあるのに、どこにも情報がありませんでした。中途障害者になる人たちは決して少なくないはずなのに」。その時の気持ちを思い出したのか、渋谷さんの語調が強くなった。

 日本脊髄障害医学会(本部・神奈川県藤沢市)の18年の調査によると、国内で脊髄を損傷した人は年間約6000人にのぼる。「同じように悩んでいる仲間やこれから悩む人は多いはず」と考えた渋谷さんは、事故から1年後の19年8月に「現代のもののけ姫Maco」と名乗り、ユーチューブでの動画投稿を始めた。車いす生活のリアルな姿を伝えるために。

「セカンドバージンを卒業して思うこと」

 昨年9月の投稿ながら、今もずっと視聴され続けている動画がある。渋谷さんが「歩けないことよりもイヤでした」と振り返る、排せつ障害について語った12分間の動画だ。

 <尿がたまった、便がたまったというのは分かりません。意識的に出すこともできません。尿は3時間間隔で尿道口にカテーテルを入れて出します>

 <便は昼前ぐらいに下りてきているので、ゴム手袋をしてワセリンを塗った指を突っ込みます>

 <おなかの具合が悪いと、知らない間に漏らし、悲しい状況になることもあります>

 使用する器具を手に、身ぶり手ぶりを加えて説明する。再生回数は、今年10月末現在391万回に達した。「興味本位で見る人もいると思いますが、全くかまいません」。渋谷さんはそう言い切る。「障害を抱えて不安に陥っている人たちや、動画で脊髄損傷のことを知って誰かを思いやるために役立ててくれる人たちもいると思います。そもそも隠すことではないと考えています」

 もう一つ、女性にとって避けられない課題にも触れている。生理やセックス、妊娠に関する事情だ。

 渋谷さんは今年5月、事故後に健常者と初めてセックスした経験を「セカンドバージンを卒業して思うこと。障がいを負っても触れ合いたい想いは同じ」と題して投稿した。

 「障害者となり、性行為ができるかどうかは気にかけていた事の一つでした。障害があっても恋愛したいし、性欲もあるし、男性を満足させたい気持ちもある。普通の20代の女の子です。そういうことも、たくさんの人たちに知ってもらいたいと思いました」

屋根から転落した後、自らをスマートフォンで撮影した写真。「動画撮影にしたらよかった」と後悔が残るという=渋谷真子さん提供 拡大
屋根から転落した後、自らをスマートフォンで撮影した写真。「動画撮影にしたらよかった」と後悔が残るという=渋谷真子さん提供

 障害者の性はタブーとして扱われることも多く、渋谷さんにとって参考になるような情報はなかった。相手は事故後に知り合った30代の男性で、関係は継続中という。

 「体は思うように動きませんが、女性は抱きしめられたり、触れられたりすることで幸福感を感じます。男性には満足しているかどうか、いろいろと聞きながら楽しい時間を過ごしています」

 “セカンドバージン”を終えて、渋谷さんは「セックスができるのか、という不安は消えて、女性としての自信を取り戻せたように思います」と笑顔を見せた。

「もののけ姫」並の環境と両親の愛が生んだ芯の強さ

 動画のテーマは、車いすでの海外旅行や介助方法、社会への不満まで多岐にわたる。駅員の対応やタクシーの乗車を巡り、率直な不満を口にして、視聴者から「サポートが当然だと思うな」と批判を受けたこともある。だが一貫して、飾らないありのままの姿を投稿してきた。11月28日には自身のこれまでの体験をまとめた著書「普通で最高でハッピーなわたし〜特別でもなんでもない二度目の人生〜」(扶桑社)を出版する。来年の東京オリンピックの聖火ランナーにも選抜された。「今後の誰かの役に立つのであれば」という思いが根底にあるというが、自らの障害や個人的体験について、ここまで明るく語ることは誰にでもできることではない。一体、その強さの理由はどこにあるのだろうか。

 「よく聞かれるんですが……」と苦笑いしながら、渋谷さんは自身の生まれ育った環境について語ってくれた。

 渋谷さんは、湯殿山嶺が見下ろす鶴岡市の山深い地域で育った。ユーチューブで「もののけ姫」と名乗るのは、今も自身の住む地域のイメージが、宮崎駿監督の映画・もののけ姫で登場する森と重なるためだ。「小学校は分校で私の学年は1人だけ。同級生はいませんでした。さらに一つ下、二つ下までいなくて、6年生になると当然ですが、児童会長です。全校生徒は10人ほどで『私が仕切るのが当然』という環境でした」

 「仕切り役」の性格は、周辺小学校が集まる中学校でも変わらなかった。「中学は1学年2クラスあり、50人はいたでしょうね。幼いころから、私はスキー競技でよく入賞していて地元ではまあまあ知られた存在でした。年上とばっかり遊んでいて髪も茶色に染めていましたし、目立っていたのでしょうね。知らない同級生に囲まれても萎縮はせず『私が仕切る』という立場がそのまま継続し、学級委員や体育祭の担当を引き受けていました」

 高校卒業後、いったん鶴岡市内の会社に勤めた渋谷さんだったが、父親の年齢による体力の衰えを見て、かやぶき職人を継ぐ決心をした。地域に残る昔ながらのかやぶき屋根の手入れをする父の姿を見続けてきたからだ。「勉強にはうるさくなかったけど礼儀作法には厳しくて、鉄拳制裁もありましたね。でも愛されて、自由気ままに育ったように思います。頑固おやじですが、今も昔もとても尊敬しています」

 事故後、前向きに歩めたのは、育ってきた環境と、父親の背中を見てきた影響もあるのでは、と渋谷さんは自身を分析する。

 SNSを使った情報発信は、実は事故の前から考えてきたことだった。日本伝統のかやぶき職人の仕事や、地域のこと、自分の思いなどを広く知ってほしいと思っていたからだ。だからこそ、事故のまっただ中でも自らをスマートフォンで撮影し、3週間後にはブログで事故を報告した。周囲やフォロワーの反応は、驚いたり感心したり……といったものだったが、本人はいたって冷静だったという。

 「今でも後悔しているのは、落下した瞬間を、スマートフォンで動画撮影にしなかったことです。なぜ、写真にしてしまったのか。転機となった瞬間で、ユーチューブに投稿したら視聴者数がぐんと上がったはず。悔しいですが今更、どうしようもありません」。悔しさをあらわにする渋谷さん。ユーチューバーという仕事にかけるプロ意識、そして事故そのものよりも、その後の対処に反省点を見いだす前向きな姿が、強く印象に残った。

「女性として見られなくなった」と悩む車いす使用者にアドバイス

 記者(生野)自身、中途障害者となった若い女性を取材した際、相談されて一緒に考え込んでしまったことがある。「女性という性ではなく、障害者という性で見られているようで、恋愛ができるか不安になる」という内容だった。渋谷さんならどう答えるのだろうか。尋ねると、「障害の状況によりますが」と断った上で、このようなアドバイスをくれた。

 「健常者の時と条件が全く同じだとは思いません。ただ、私の場合ですが、今のように喫茶店で話している時に、車いすでも、椅子に座っていても同じですよね。会話をしていて障害は感じませんよね。楽しく話をして、お互いを知り、そして関心を持つ。それは健常者でも障害者でも状況は変わらないと考えています」

 そして、障害者であることで諦めたり、努力を怠ったりしてはダメだと言葉を続けた。

夏はお気に入りの水着で海にも遊びに行った=渋谷真子さん提供 拡大
夏はお気に入りの水着で海にも遊びに行った=渋谷真子さん提供

 「車いすだからオシャレをしても仕方ない、ダボダボのズボンでいい、お化粧もいらない、となればそれは違うと思います。私は動かない足にピチピチのパンツもはきます。トイレの時の脱いだりはいたりは大変ですが1日数回のこと、面倒くさがっていてはいけません」

 「太らないように筋トレもしますし、マスカラを丁寧に使い、化粧も欠かしません。障害者を言い訳にしていたら、良い出会いは期待できません」

 障害者となり困惑した当初を思い出し、言葉を紡いでいるように見えた。もちろん障害の程度はそれぞれで、ちょっとスパルタな物言いのようにも聞こえる。だが、率直な言葉は、障害を持つ同士響くのではないか、と感じた。

 そんな渋谷さんは将来は結婚し、子供を育てたいと願うが、今はまだ早いと考えているという。

 「障害を持つ仲間とつながり、イベントに呼ばれたり、取材を受けたり、医療関係者とつながったり。『障害を持ってよかった』とは思いませんが、どれも障害者にならなければ知ることができなかった。特別ではない、2度目の人生です。『障害者は特別』という偏見を取り払い、普通に接してもらうために国内外に足を運び、SNSで情報を発信していきたいと思っています」

 最後まで笑顔を絶やすことはない。ネガティブなことも、誰かを攻撃するような言葉も一切ない。障害は関係ない、私は私。そんな芯の強さを感じた。

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