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加藤陽子・評 『インビジブル』=坂上泉・著

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『インビジブル』
『インビジブル』

 (文藝春秋・1980円)

見えないことにされる人々を探す

 5年ほど前、ジュンク堂本店の片隅で自分の選んだ本を売る「作家書店」を開いたことがあった。書棚の分類は五つ。今を考えるための「時代本」、研究に必須の「研究本」、女性が書き手の「女縁本」、専門を広く支える「楽屋本」。最後に、糊(のり)を利かせたシーツへ潜り込むお供の「寝床本」がくる。この選書が一番楽しかったのを思い出しつつ、今こそ読みたい寝床本として本書を推す。目に見えないさまを意味する「インビジブル」。この表題に著者が込めた意味は何だったのかを考えながら。

 目次を開けば、全て4文字で決めた6章分のタイトルが並ぶ。第一章「真空地帯」から最終章「王道楽土」の間に、合同捜査、八百八橋、罪証隠滅、赤い夕日、とくる。各章の冒頭には、寒村から開拓団員として満洲へ渡った「俺」、見えない主人公・俺の語りが置かれる。開墾地での束(つか)の間の幸福、現地召集、ソ連軍の侵攻、シベリア抑留。姿の見えない主人公・俺の足跡を背中から覗(のぞ)き込むようにして描いてゆく著者は、…

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