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親子のふれあい呼び戻したコロナ防護服 距離を乗り越える宇宙服のよう

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8カ月ぶりの母・中島万里子さん(左)との面会で、防護服「メディコン」を着て抱き合う箕浦尚美さん=札幌市北区で2020年10月29日、貝塚太一撮影

 「お母さーん!」。母が入所する老人ホームの部屋に入ると、透明な風船のような膜で頭を覆う防護服を着た娘が肩を抱き寄せた。ほおずりはできなかったが、互いの体温を確かめるように手や顔をなで、8カ月ぶりの面会がかなった。

 札幌市北区の介護付き有料老人ホーム「フルールハピネスしのろ」では、新型コロナウイルス感染防止のため2月から入所者への面会を断ってきたが、10月から防護服の着用を条件に再開した。1日4組8人限定で、服の着脱時間を含めて1回30分。4月からはタブレット端末によるウェブ面会を続けてきたが、「実際に会いたい」という声は月日がたつにつれて大きくなってきていた。

 施設を運営する「萌(もえ)福祉サービス」の水戸康智代表(44)が「入所者の命を守りながら、ご家族の思いをかなえる手立てはないか」と考えていた時、この防護服をテレビで見て、すぐさま開発した会社にメールし導入を決めた。

 母・中島万里子さん(89)と面会した札幌市北区の絵手紙講師、箕浦(みのうら)尚美さん(62)は「母の肌のぬくもりを感じられてありがたかった」と話した。施設に入るとすぐ入念に手洗いし、服を着たまま全身を消毒。防護服は施設の職員に手伝ってもらいながら2、3分で着られた。母を抱擁した後、ベッドに並んで座ると、最近よく泣くようになった母の手をさすり、温かい言葉をかけ続けていた。

 施設で使われている防護服は、大型テントなどの製造販売を手がける太陽工業(大阪市淀川区)が4カ月かけて商品化した「メディコン」。服の外部からの飛沫(ひまつ)感染を防護する医療従事者向けと、着用者から他者への感染も抑える医療・介護施設などでの面会者向けの2種類がある。

新型コロナの感染拡大により急ピッチで製造、出荷される太陽工業の医療用陰圧テント=大阪府枚方市で2020年4月7日、藤井達也撮影

 新型コロナの感染拡大以前から販売していた医療用陰圧テントが3月以降、PCR検査や患者の隔離をする空間として需要が高まった。陰圧テントは内部の気圧を外気より低くし、フィルターを通して排気することでウイルスが外へ出るのを防ぐ。その技術を使って「一人の人を包む」ことで安全でパーソナルな空間を作れるのではないかと、4月末から開発を始めた。

 防護服を着た人が、どうすれば快適に動けるか試行錯誤が続いた。使い切りではなく、消毒やクリーニングに対応できる耐久性なども考慮し、担当者が「20回ほど改良を重ねた」という。開発の過程でニーズが最も高いと分かった病院や高齢者施設用に特化し、9月に完成させた。

 防護服は、背中のファンから外気を取り込み、頭部にある二つのフィルターを通して内部の空気を外に出す仕組み。医療用陰圧テントでも使われる、0・3マイクロメートルの粒子を99・97%捕集する高性能HEPAフィルターにより、利用者が無症状の感染者だったとしても、排気からウイルスが拡散される可能性は限りなく低いという。

 感染の恐れから距離を取らざるを得なかった人たちが1枚の膜を通して、その距離を縮めていた。空気の循環で膨らむ防護服が、遠く離れた場所にたどり着くための宇宙服にも見えた。【貝塚太一】

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