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学術会議任命拒否

日本学術会議が推薦した新会員候補6人を菅首相が任命しなかった。極めて異例の事態の背景や問題点を追います。

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映画人の危機感「放置なら次は…」 森達也監督が警告する「集団化」の空気

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森達也監督=東京都港区で2019年11月8日、喜屋武真之介撮影
森達也監督=東京都港区で2019年11月8日、喜屋武真之介撮影

 菅義偉首相が日本学術会議が推薦した新会員候補6人を任命しなかった問題で、映画人有志22人が先月、抗議声明を発表した。呼びかけ人となった映画監督の森達也さん(64)は「今これを放置するなら、介入はさらに露骨になることは明らか。映画も例外ではない」と危機感を募らせる。オウム真理教を追ったドキュメンタリーなどで社会の深層を描いてきた映画人が見た、日本を覆う危険な空気とは――。【上東麻子/統合デジタル取材センター】

ひとたび権力が暴走すれば、映画人は無力

 ――声明には、青山真治、是枝裕和、瀬々敬久、塚本晋也各監督や脚本家、プロデューサーら22人が名を連ねました。学術界に対する政権の介入に対して、なぜ多くの映画人が声を上げたのでしょうか。

 ◆権力者がターゲットとしてまず知識階級を狙い撃ちにするのは、独裁政権の常とう手段です。学者だけでなく、第2、第3段階には映画が狙われるだろうと思いました。それは歴史を見れば明らかです。

 第二次大戦後、米国を中心とする西側の資本主義・自由主義国と、ソビエト連邦を中心とする東側の共産主義・社会主義国が対立した東西冷戦時代、米国では共産党員やそのシンパを公職や企業から追放するレッドパージ(赤狩り)が行われました。米国の憲法は思想や信条の自由を保障しています。しかし、赤狩りはエスカレートし、社会への影響が大きいハリウッド映画も標的になった。共産党員の疑いをもたれた映画監督や俳優たちは議会で「自分は共産党員でもシンパでもない」と証言することを求められ、これを拒否してハリウッドを追放された人たちがいました。一方で、圧力に屈した映画人も多かった。政治権力が暴走すると、自分たちがいかに無力かを僕たちは知っています。

 ――声明文では、ドイツの牧師で反ナチス運動の指導者だったマルティン・ニーメラーの警句が引用されています。

 <ナチスが共産主義者を攻撃し始めたとき、私は声をあげなかった。なぜなら私は共産主義者ではなかったから。

 次に社会民主主義者が投獄されたとき、私はやはり抗議しなかった。なぜなら私は社会民主主義者ではなかったから。

 労働組合員たちが攻撃されたときも、私は沈黙していた。だって労働組合員ではなかったから。

 そして彼らが私を攻撃したとき、私のために声を上げる人は一人もいなかった>

 ◆この警句が示しているのは、人ごとだと思ってはいけない、いま声を上げなくてはどんどん広がる、ということです。かつてカンボジアで大虐殺を行ったクメール・ルージュ(ポル・ポト派)が最初に標的にしたのは知識層です。大学教員らを追放し、殺害した。次は字が書ける人、本が読める者、ついには眼鏡をかけている人に広がりました。このままでは自由や民主主義が窒息してしまう。いや、すでに窒息しかけている。そうした危惧を感じています。

もう傍観者ではいられない

 ――これまで森さんは「声明文」という形で発信することはほとんどなかったそうですね。

 ◆映画監督は、こういうことを…

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