SUNDAY LIBRARY
岡崎 武志・評『三度目の恋』『女ともだち 靜代に捧ぐ』ほか
- Twitter
- Facebook
- はてなブックマーク
- メール
- リンク
- 印刷
今週の新刊
◆『三度目の恋』川上弘美・著(中央公論新社/1700円)税別
川上弘美の新作長編『三度目の恋』は手が込んで、謎めいている。ヒロインの「わたし」(梨子(りこ))の最初の恋は少女時代。おじさんに当たる若者を好きになる。ナーちゃんこと原田生矢(なるや)は「うつくしい男」で、みな惹きつけられた。
24歳の時、念願が叶(かな)いナーちゃんと結婚。しかし、彼にはつねに女があり、上司の婚約者との悲恋で何もかもを失う。そんな時、梨子は小学校時代に用務員をしていた高丘と25年ぶりに再会。高丘に何もかも打ち明けた梨子は魔法をかけられて……。
最初は夢の中で吉原の遊女となり男に抱かれ、さらに遡(さかのぼ)って平安時代の姫の姿で恋をする梨子。それでいてナーちゃんへの思いを断ちがたい。切ない三つの恋が、高丘を媒介に夢うつつで展開する。「ああ、人はなぜ、昏(くら)い場所へと惹かれてゆくのでしょう」
この記事は有料記事です。
残り1426文字(全文1821文字)