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「もう1日生きてみよう」と思ってくれれば お笑い芸人・たかまつななさん

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政治や社会の問題をユーチューブで発信するお笑い芸人のたかまつななさん=東京都新宿区で2020年10月12日、野村房代撮影
政治や社会の問題をユーチューブで発信するお笑い芸人のたかまつななさん=東京都新宿区で2020年10月12日、野村房代撮影

 政治や社会の問題についてユーチューブなどで発信しているお笑い芸人のたかまつななさん(27)は9月末、投稿サイト「note」に「自殺を考え、自助グループに通いだした。そして楽になった私が今伝えたいこと」と題した記事をアップした。「私の弱さを表に出すことで、もう少し生きてみようと思ってくれる人がいればいい」と語るたかまつさんに、記事に込めた思いを聞いた。【野村房代/統合デジタル取材センター】

 ――記事がアップされたのは、俳優の竹内結子さんが自死したと報じられた翌日でした。なぜこのタイミングだったのですか。

 ◆7月以降、三浦春馬さんや芦名星さんら芸能人の自死が相次いでいた中で竹内さんの訃報が届き、私自身がとても苦しく、悲しみや落ち込みで胸がいっぱいになりました。ただでさえコロナ禍の中で閉塞(へいそく)感が強い状況下では、同じように苦しんでいる人も多いのではないかと思い、自死の増加に歯止めをかけたい一心で記事を書きました。自分が「死にたいと考えていた」と書くのは勇気がいりましたが、私の経験が役に立てばと、かき立てられるような気持ちでした。

止まらない涙に「おかしい」と気づく

 ――「死にたいと考えていた」時は、どんな状況だったのですか。

 ◆7月中旬ごろ、なぜか涙が止まらない、という日が数日続きました。仕事中は平静を装っていても、関係者が席を外した瞬間に涙があふれてくる、という状態でした。お笑い芸人として活動し始めた大学生の時にストレスで過呼吸になったことはありましたが、これほど精神的に不安定になったのは初めてで、自分でも「おかしい」と認識できたんです。

 それまで自死遺族にインタビューする機会が多かったので、死にたいと思った時にどうすればいいかの知識があったことは幸いでした。まず「いのちの電話」などの相談窓口数カ所に電話し、ようやくつながった先で精神科の受診をすすめられました。ですが自分で病院を探す心の余裕がなかったので、当時勤めていたNHKの先輩や知人に「良い精神科を教えてください」などと助けを求めました。それに対して精神科のリストを送ってくれたり、深夜に5時間、電話で話を聞いてくれたりと、多くの人が力になってくれました。

事実無根の記事や将来への不安・無力感

 ――つらくなった原因はどんなことが考えられますか。

 ◆おそらく原因は一つではなくて、いろいろなことの積み重ねだと思います。一つは、2018年にディレクターとして入社したNHKを7月末で退職すると発表したこと。「政治家に転身」や「クビ」と事実無根の記事をネットメディアに書かれたことに傷つきました。

 もう一つは、私が16年に設立した会社「笑下村塾」の経営危機。笑下村塾は若者の政治への関心を高める主権者教育を主な目的として、全国の学校に出張授業などを届けてきましたが、コロナ禍の中で活動の縮小を余儀なくされました。若い人に社会問題を身近に届けるため、NHKを退職して「時事ユーチューバー」になろう、と考えたんです。それに伴う将来への漠然とした不安もあったと思います。

 それから、自分が発信したいことがうまく伝わらないことへのもどかしさ、無力感もありました。最近では、森友学園問題で公文書改ざんを苦に自死した元近畿財務局職員、赤木俊夫さんの妻・雅子さんにインタビューし、マスメディアでは伝えられていない深い内容を聞くことができたという自負があったのですが、思ったよりユーチューブの視聴者数が増えず、つらい経験を話していただいたのに申し訳ない、自分の実力不足だと落ち込みました。今は普通に仕事をしていますし、周囲の人…

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