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#全集中!「鬼滅の刃」考

「子どもに見せて大丈夫?」 悩む親たちに説く、鬼滅ブームとの向き合い方

映画館の外壁に並ぶ「鬼滅の刃」の広告=横浜市西区で2020年11月18日、丸山博撮影

 「鬼滅の刃(やいば)」の熱狂が続く。親子で楽しむ家庭もある一方で、残虐なシーンについて、ひそかに「子どもに見せていいの?」と戸惑っている親もいるようだ。実は2児の親である記者もその一人。親子関係や子どもを取り巻く環境の変化に詳しい大妻女子大の小谷敏教授(現代文化論)に、ブームの背景と、作品とどう向き合うべきか、掘り下げてもらった。【山内真弓/統合デジタル取材センター】

魅力あふれるキャラとストーリー でも子どもには…?

 ――まず、鬼滅の刃の感想はいかがですか?

 ◆アニメと映画の双方を見たのですが、首が斬られたり、列車の下敷きになったり……。残酷な場面が多いことに驚きましたね。

 ただ、人気があるのは分かります。イノシシのかぶり物をした嘴平(はしびら)伊之助、不思議なキャラクターの我妻善逸(あがつま・ぜんいつ)……。キャラクターがかわいいですよね。ストーリーには、(「鬼滅」を連載した)「週刊少年ジャンプ」の3大原則とされる「友情・努力・勝利」が随所に織り込まれています。そういう意味では「正統派のジャンプアニメ」だと言えます。

 教えている大学生に聞いてみたら、(TOKYO MXの)深夜アニメでハマったという人が多かった。アン・アリスンというアメリカの文化人類学者が書いた「菊とポケモン」という本には、日本アニメのポケモンがアメリカで人気を誇った背景が描かれています。アメコミ(アメリカの漫画作品)は単純な勧善懲悪が多いが、日本のアニメは、主人公の弱さが描かれる一方、敵もさまざまな背景を抱えており、人間的に同情・尊敬すべき点がある。最後はたいてい主人公が勝つが、主人公が敵に同情したり、戦いのむなしさを語ったり……。ポケモンは、そういうアメコミにはない「深さ」がある。学生も、「鬼滅」に対して、似たようなことを言うんですよね。

 敵役であり、人を食う「鬼」も物語を多く持っている。鬼の人間時代の記憶がたくさん語られていて、共感できる、と。アニメの中で、人間時代に物をたくさん書いていた鬼がいましたね。それを散々けなされて鬼になったエピソードは、私も身につまされるところがあります。

 また、「鬼殺隊」の剣士たちもそれぞれ「アナザーストーリー」があります。魅力的なキャラクターが「オタク」たちの(同人誌などへの)2次創作欲求をくすぐる、中毒性の高いアニメとも言えます。本編で描ききれない部分を妄想して楽しんでいる部分もあるようです。

 ――残酷なシーンといえば、私(山内)の子どもが通う学童保育にも「鬼滅」のコミックスが置いてあるそうですが、高学年以外は先生の許可がないと読めないと聞きました。魅力的な作品であることも分かりますが、親としては「子どもが見るのにあそこまで残酷なシーンを入れる必要があったのか」と思ってしまいます。

 ◆私もそう思います。もちろんこれまでも少年ジャンプには1980年代に流行した「北斗の拳」など、残酷な場面が出てくる漫画はありました。ただ、昔の漫画は今より絵が荒く描かれていることもあり、殺す場面もある種「記号化」されていたように思います。そのため、一般にそこまで怖く感じにくかったのかもしれません。一方、「鬼滅」の映像は描写が精密で、大人の私が見ても怖く、気持ち悪いシーンもあり、子どもに見せられない、と思いました。

「スクールカースト」連想も

 ――しかし「鬼滅」は小学生の間でも大人気ですね。映画館でも、小さい子ども連れの家族を見かけます。なぜなのでしょう。

 ◆一つは、視聴環境の変化があると思います。これまで、親が「子どもには見せたくない」と思う大人向けの表現があるアニメは、(子どもが寝ている)深夜、放映されることが多かった。時間帯を分けることが防波堤の役割を果たしていたわけです。実際、「鬼滅」も最初は深夜アニメでした。しかし今は動画サイトで見逃し配信をしていて、子どもも気軽に見られる環境です。

 新型コロナウイルスの流行も大きいでしょう。家に閉じ込められた我が子をかわいそうに思った親が、これまで見せてこなかった「鬼滅」を、子どもに「見てもいいよ」と許したケースもあるでしょう。学生も「コロナでやることがなくて、ネットで『鬼滅』のアニメを見ているうちに、沼に落ちる要素が多く、ハマった」と言っていました。

 ――ストーリーにも子どもが引きつけられる要素があるのでしょうか。

 ◆「鬼滅」は、いまの日本の子どもの内面ともうまくマッチしているように思います。最近の子どもたちは、殴り合うような暴力的なケンカとは無縁な感じがしますが、精神的な暴力、つまり陰湿ないじめは多い。大学で若い学生に交じって授業を受けていた60代の女性が、「みんな感じの良い子たちだけど、腹の探り合いばかりしている」と言っていました。うかつに本音を言うと、袋だたきにあう。精神的に立ち直れないくらいのダメージを受けるいじめにあって、うつ病になる。そういったことが低年齢でも起きている。学生に聞くと、小中高時代にいじめを受けて、学校に行けなくなった経験を持つ人がびっくりするほど多いんです。つまり精神的な暴力が子どもの世界にはびこっているのが、今の日本社会です。この結果、日本の子どもたちは、他の先進諸国に比べ、幸福度が低いとされています。

 「鬼滅」は、こうした「不幸」な子どもの内面を、うまく描き出している印象的な場面が多い。映画の中で、鬼に手なずけられた人が、炭治郎らの内面世界(無意識領域)に入り、「精神の核」を破壊しようとするシーンがありましたね。お互いの心の内面を破壊し合うような悲劇がはびこる子どもの現実世界とシンクロし、リアルに表現していると思いました。

 下弦の鬼が、頑張って努力しても上弦の鬼になれなかった、と嘆く場面もあります。ここは、現実の学校にもある「スクールカースト」をほうふつさせます。上弦の鬼を1軍、下弦の鬼が2軍……。身につまされた子どもも多かったのではないでしょうか。

「大人もハマる」が商業的ヒットの条件に

 ――子どもたちを引きつけるのと同時に、非常に質の高いアニメーションと深いストーリーで、親や大人たちもハマっている。これだけのヒットになるのも納得がいきますね。

 ◆そこが現代の潮流だと思います。かつてアニメや特撮ヒーローものは基本的に子ども向けで、内容も子どもの発達を考慮して作られていました。しかし少子化によって、子どものためだけに作られた作品は、商売にならない状況が20年ほど前から続いています。作品そのものも、本来の「子どもの読みたいもの」から、大人の「思い」がベースになっている印象を受けます。そうした商業的な要求に、制作側がなかなかあらがうことができない。

 例を挙げます。昭和の仮面ライダーは、…

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山内真弓

2007年入社。水戸支局などを経て、東日本大震災後の仙台支局へ。2020年春から東京・統合デジタル取材センター。記者として心掛けているのは、見えにくい日常を描くこと。2児の母で、保活(保育園探し)を6回して疲れ果てたため、地域の子育て環境に関心がある。

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