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演奏活動、半世紀 ヴァイオリニスト前橋汀子が挑戦を続ける理由

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自身の名を冠したカルテットでツアーに臨むヴァイオリニストの前橋汀子さん=大阪市内のホテルで2020年11月6日、小出洋平撮影
自身の名を冠したカルテットでツアーに臨むヴァイオリニストの前橋汀子さん=大阪市内のホテルで2020年11月6日、小出洋平撮影

 ヴァイオリニスト前橋汀子は存在そのものが「歴史」である。冷戦まっただなかの1961年、「鉄のカーテン」の向こう側、ソ連のレニングラード音楽院に留学。続いて米国、スイスと渡り歩き、ヨーゼフ・シゲティやナタン・ミルシテインら世紀の巨匠のもとで腕を磨いた。俳優チャールズ・チャプリン、画家オスカー・ココシュカと対面したこともある。演奏活動55年を超えた今もバリバリの現役だが、弾き慣れた曲ばかりでなく、新たなレパートリーにも貪欲に挑み続けている。特にご執心なのがベートーヴェンの弦楽四重奏曲だ。前橋さんを新たな挑戦へと駆り立てるものは何なのか? インタビューを試みた。【濱弘明】

結成6年のカルテットで国内ツアー

 前橋さんが第1ヴァイオリンを務め、久保田巧さん(第2ヴァイオリン)、川本嘉子さん(ヴィオラ)、原田禎夫さん(チェロ)とともに2014年に結成した「前橋汀子カルテット」が11月21日に国内ツアーをスタート。ドイツ在住の原田さんは新型コロナウイルスの影響で来日がかなわず、チェロは北本秀樹さんに交代する。

 会場は、滋賀・びわ湖ホール(21日)▽愛知・宗次ホール(22日)▽兵庫県立芸術文化センター(25日)▽東京・かつしかシンフォニーヒルズ(26日)▽神奈川・フィリアホール(27日)▽東京・日経ホール(30日)。生誕250周年となったベートーヴェンの弦楽四重奏曲から初期の第4番、中期の第11番「セリオーソ」、後期の第14番の3曲を演奏する。

 「どうしても弾きたいと思っていたベートーヴェンの後期のカルテットに挑戦できるところまでたどり着いたのは、ここまで弾き続けてきたから。それを聴いてくださるお客さんがいらっしゃるのがうれしいです」

 演奏できる喜びを胸に、ステージに上がる。

冷戦期のソ連レニングラードで修業

 前橋さんの「歴史」をざっと紹介しよう。

 帝政ロシア出身の小野アンナからヴァイオリンの手ほどきを受けてロシアへの憧れを募らせ、ロシア語の習得にも努めた。17歳の時に念願かない、レニングラード音楽院(現サンクトペテルブルク音楽院)の創立100周年を記念する国外留学生受け入れの対象者に選ばれた。「なんで私が行けたのかは、今もよくわからないの」という。

 音楽院の同じクラスにはギドン・クレーメルさんやフィリップ・ヒルシュホルン(故人)らがいた。同級生の演奏を日々耳にすることで、己の実力不足を痛感する。

 「私はおびえたウサギのようでした。劣等感どころか、日本にも帰る…

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