熊本県の川辺川へのダム建設計画について、同県の蒲島郁夫知事が容認を表明した。
知事は2008年、住民の建設反対の声が高まったことを受け、計画の白紙撤回を表明した。翌年に旧民主党政権が中止を決めた。
しかし、今年7月の豪雨で川辺川の本流の球磨川が氾濫し、多数の住民が犠牲になったため、方針を転換した。
知事は球磨川流域の治水について「ダムを選択肢から外すことはできない」と述べた。そのうえで、環境に配慮し、大雨時以外は水をためない「流水型ダム」の建設を国に求める考えを示した。
ただ、決断の根拠は不十分だ。
国は今回の災害を検証した委員会で、ダムがあれば被害が大きかった地区の浸水範囲を6割減らせたとの推計を示した。
だが、これは従来の「貯留型ダム」を前提にしたものだ。流水型で新たなダムの建設を目指すのなら、算定し直す必要がある。
地元の民意も割れたままだ。県は住民や団体代表らを対象にした意見聴取会を30回開いたが、環境への影響を懸念して反対する声は依然少なくなかった。
流水型ダムは「環境に優しい」とされるが、従来の計画規模のままなら流水型としては国内最大規模となる。川辺川の清流に与える影響は不透明だ。
こうした疑問点について、住民の懸念に応えるような説明が欠かせない。
近年、地球温暖化によって豪雨災害が激しさを増している。このため国は、ダムや堤防だけに頼る治水には限界があるという認識に立ち、「流域治水」という新たな考え方への転換を進めている。
地域ごとに、遊水地の活用や移転の促進、避難計画策定などハード、ソフト両面の対策を組み合わせ、総合力で災害に対応する。球磨川流域についても、素案を策定中だ。
本来なら、流域治水をどのように進めるかというビジョンを提示するのが先だ。そのうえで、ダムは必要か、必要なら役割をどう位置づけるかを検討すべきだ。
ダムの完成には長い年月を要する。豪雨災害が頻発する中、他の治水対策が止まることがあってはならない。