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戦後の流行歌をカバー 平成生まれの昭和歌謡好き 町あかりさんが感じた「普遍的悲しみ」

昭和初期の持ち運び式蓄音機と、戦後に再発売された「丘を越えて」のSP盤を見て、当時の人々に思いをはせる町あかりさん=日本コロムビアで、中嶋真希撮影

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 10代で好きになった昭和歌謡からの影響を受けつつ、ファンからは「誰もやらないような音楽」と評価を受けるシンガー・ソングライターの町あかりさん。8月には「町あかりの昭和歌謡曲ガイド」を出版したほどの筋金入りだが、今度は昭和初期から昭和35年ごろまでの「流行歌」をカバーし、アルバム「それゆけ! 電撃流行歌」(日本コロムビア)を発表した。数多くの流行歌を手がけた古関裕而さんがNHK連続テレビ小説「エール」のモデルとなり注目を集める中、「人の悲しみは普遍的なもの」と話す町さんが、昭和初期までさかのぼった理由とは--。【中嶋真希】

 10月、「日本コロムビア」に町さんの姿があった。同社は1910年、「日本蓄音器商会」として創立。片面SP盤と蓄音器4機種を日本で初めて発売した日本で最も歴史のあるレコード会社だ。「どうやって聞くんだろう」。同社が保管する昭和初期の持ち運び式蓄音機と、戦後に再発売された「丘を越えて」のSP盤をしげしげと眺めていた。「丘を越えて」はアルバムでカバーした31年の流行歌だ。

 「青い山脈」「憧れのハワイ航路」--。戦後、焼け跡の中で絶望を味わった日本人の心を救った数々の名曲たち。元々、70~80年代の歌謡曲を好み、沢田研二さんや筒美京平さんらに影響を受けてきた町さんは昨年秋、さらに古い「流行歌」と出合った。きっかけは横浜でのライブが決まり、「横浜にちなんだ曲を歌おう」と考えたことだった。

日本コロムビアが保管する昭和初期の持ち運び式蓄音機と、戦後に再発売されたSP盤=中嶋真希撮影

 「伊勢佐木町ブルース」「ブルー・ライト・ヨコハマ」……。横浜を舞台にした歌謡曲は多い。しかし、「もっと触れたことのない曲を」と考えてたどり着いたのが、高度経済成長期が始まる前の1951年に発表された「上海帰りのリル」だった。

 <船を見つめていた ハマのキャバレーにいた 風の噂(うわさ)はリル……>

 戦前のジャズ「上海リル」にヒントを得た曲を作ったのは渡久地政信さん。売れない歌手から作曲家に転じたころ、6畳1間のバラックで、ピアノの代わりに床をたたいてメロディーを編んだという。83年5月17日に掲載された毎日新聞のインタビューで、渡久地さんは、こう答えている。「私自身、胸部貫通銃創を受けた傷痍(しょうい)軍人です。戦死した友、やっと故国へ戻ってきた引き揚げ者の人たち。その姿を思い浮かべながら、私はこの曲をつくったのです」

 「おもしろい。こんな曲があったんだ」。町さんはこの曲を聞いた瞬間、直感的にこう思った。

 イントロ、Aメロ、Bメロ、サビで構成される現代の曲と違い、「1番、2番、3番……とひと続きになっていて、一筆書きみたい」と、新鮮さを覚えた。横浜でのライブが好評だったこともあり、2019年の冬のライブでは、「青い山脈」などほかの流行歌も歌ってみた。客の反応は良く、手応えを感じ、カバーアルバムの発売に踏み切った。メロディーは思い切りポップにアレンジした。ただ、原曲を尊重し、歌声は飾らない声を出した。「変に感情をこめて抑揚をつけるのではなく、とにかくまっすぐ歌いたかった」

戦後の悲しみがにじみ出ている

 古い文化に興味を持つ町さんは、物心ついたころから戦争の歴史に興味を抱いていた。「戦前から戦後を生きた人たちは、どういう状況に置かれていたのか、どんな気持ちだったのか」と、幼少期から戦争を描いた映画やNHKの特集番組をよく見ていた。いつか映画で見た、貧しい暮らしの中でも必死に戦後を生きた人々。「あの時代に『青い山脈』を聞いて、それはそれは励まされたでしょうね」と当時に思いをはせる。

 <若く明るい 歌声に 雪崩は消える 花も咲く 青い山脈……>

 石坂洋次郎原作の映画「青い山脈」の主題歌として49年に発表されたのがこの同名曲だ。「東京ブギウギ」「銀座カンカン娘」と並ぶ、作曲家・服部良一さんの代表曲だ。

 歌唱を担当した藤山一郎さんは、バリトンの声楽家を目指していたものの、家業の呉服屋が倒産し、借金を返済するためにレコード会社のオーディションを受けて歌手になった。1931年には、「酒は涙か溜息か」がヒット。戦時中は軍歌を歌い、南方の慰問にも派遣された。終戦はインドネシアで迎え、捕虜の経験もあった。そして戦後に歌ったのが、「青い山脈」だった。

 <雨にぬれてる 焼けあとの……>

 「戦後という激動の時代に作られた曲。直接的に戦争のことが歌詞に入っていなくても、にじみでている」と町さんは話す。

「今は、当時なかった悲しみがある」

 悲しみがにじみでた名曲。アルバムを作る上で特にコロナ禍を意識したわけではない。ただ、「去年と今年では、状況がまるで違う。だからこそ、このアルバムの聞こえ方も違うのでは」。町さんはこう語った。

 インディーズを経て2015年にメジャーデビュー。以来、月に何回もライブ活動を重ね、ファンに生の音楽を届けることを大切にしてきた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大が影響し、観客を入れてのライブはできなくなった。

「港が見える丘」のシングルレコードと、「それゆけ!電撃流行歌」

 ライブができない間に、「町あかりの昭和歌謡曲ガイド」を書き上げ、8月に出版。「電撃流行歌」のレコーディングもこなした。コロナ禍だからこそ落ち着いてできることに取り組み、前向きな気持ちでいたつもりだった。それでも、見えない疲れを抱えていたのだろうか。「ああ励まされるな、いい歌だな」と町さんの心に流行歌が染み渡った。「直接的に『がんばろう』という励ましの曲ではないんですよね。悲しい曲であっても、いい曲を聞くと元気が出る」

 明日がどうなるかわからない不安で覆われた今の社会について、町さんは言う。「戦後の混乱期は過酷だった。でも、今はその当時にはなかった別の悲しさがある。今のほうが幸せな部分もあるけれど、不幸な部分もある。人の悲しみは普遍的なものだから、このアルバムを聞くことで、共感するところもたくさんあるのではないか」

 まずは「とにかく聞いて」と町さんは言う。「そして、『ね、いいよね?』って言いたい。共感してもらえたらうれしい」と笑顔で話していた。

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