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わざおぎ登場

中村時蔵さん「三人吉三巴白浪」を語る 「口が勝手に動く」気持ちのいい七五調の名せりふ=完全版

インタビューに答える歌舞伎役者の中村時蔵さん=東京都千代田区で2020年11月4日、内藤絵美撮影

 お嬢、和尚、お坊。義兄弟のちぎりを結んだ吉三の名を持つ3人の盗賊が登場する「三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)」。女形の中村時蔵さんが、女装の盗賊、お嬢吉三を東京・国立劇場の「12月歌舞伎公演」で演じる。

 幕末から明治の劇界きっての人気作者、河竹黙阿弥作で安政7(1860)年、江戸・市村座初演。7幕物だが、現在では3人が活躍する場面のみの上演が通常。今回は、序幕「大川端庚申塚(おおかわばたこうしんづか)」、二幕目「巣鴨吉祥院」、大詰「本郷火の見櫓(やぐら)」の構成だ。和尚は中村芝翫、お坊は尾上松緑の配役。

人気が高い「大川端」

 最も人気が高い場面は3人が出会い、義兄弟の約束を交わすまでが描かれる「大川端」。一幕物として上演されることも多い。客の十三郎が忘れた金包みを届けるために夜道を急ぐおとせに、振り袖姿のお嬢が声をかけて金を奪い、川へ突き落とす。その際にお嬢が口にする「月も朧(おぼろ)に白魚の……」から始まる長せりふは歌舞伎ファンにはおなじみだ。

 「通し上演では2回目ですが、『大川端』だけは、その前に巡業(1983年)でいたしました」

 杭(くい)に左足をかけて左手で左裾を取り、右手に刀を持って決まるのが十五代市村羽左衛門型。時蔵さんもその型で演じる。

 「落ちたおとせを見ようと視線を下に移すと川面に月が映っている。その月を見てせりふを言い出すのをきっかけに鉦(かね)が入ります。月を見たときにコンと入れるのと、顔を上げた時にコンと入れるのと二つのやり方がありますが、どちらにしようか思案中です。言い出す間をためた方がいいのか、すっと言った方がいいのか。稽古(けいこ)をしながら決めようと思います」

切り合いから、義兄弟、恋人へ

 お嬢はおとせの後を追うように花道から登場する。

 「実はもうおとせの金を狙っていると解釈しています。花道を出た時も、誰かいないかと後ろをちょっと気にし、『ちょっとお待ちなされてくださいませ』とおとせに近づく。お嬢は男です。声をかける時は娘らしくしますが、誰かいないかと、ようすをうかがうところは男でやった方がいいと思います」

 奪った金包みを手に、意気揚々と引き上げようとするお嬢に、駕籠(かご)から下りたお坊が声をかける。「勇ましく引っ込もうと思っていたところで、お坊に一声かけられ、急に女っぽいしぐさをするのもおもしろいです」

 金を奪おうとするお坊とお嬢は切り合う。駆けつけた和尚が仲裁に入り、2人は和解。和尚を兄貴分に立て義兄弟となる。

 「吉祥院」では、殺人の罪で、捕り方に追われるお嬢とお坊が和尚のいる寺の吉祥院で再会する。お嬢とお坊はすでに恋仲になっている。

 「2人は会いたかったと言い合います。ここは恋人同士の感じでいいと思います」。和尚は、自分の弟妹であり、双子と知らずに恋仲となったおとせと十三郎を殺害し、2人の首をお嬢とお坊の身代わりにしようとする。

火の見櫓を登る姿に美的効果

 最後は「火の見櫓」。雪の中を捕り手から逃げるお嬢とお坊が、三人吉三の捕り物のために閉じられた木戸越しに言葉を交わす。本来はお坊が本花道、お嬢が仮花道から登場し、掛け合いでせりふを言うが、今回は花道と舞台になる。「お互いに全然違うことをしゃべっていながら、最終的には同じところにつながります」

 木戸を開けさせるには、三人吉三捕縛を知らせる火の見櫓の太鼓を打つことが必要だ。お嬢とお坊は捕り手と立ち回り、お嬢が櫓に登って太鼓を打つと木戸が開き、和尚が現れる。

 恋人会いたさに放火をした、八百屋お七が火の見櫓に上がる舞踊の「櫓のお七」のパロディーだ。「雪で風情があり、娘姿で櫓を登るお嬢の緋(ひ)の襦袢(じゅばん)がチラチラと見える。美的効果もある場面です」

七五調でテンポが良い名せりふ

 通し上演で、時蔵さんがお嬢吉三を初演したのは2003年4月、香川県琴平町・金丸座の「こんぴら歌舞伎」。尾上菊五郎さんの指導を受けた。

 「男性でありながら女装しているのは弁天小僧と同じですが、お嬢の方がより優しいです」

 お嬢の初演は女形以外はほとんど演じない真女形の岩井粂三郎。対して弁天小僧菊之助の初演は立ち役が主体の五代尾上菊五郎。同じ女装の男性ながら、あて書きされた2人の個性の違いが役にも投影されている。

 「月も朧(おぼろ)に白魚のかがりもかすむ春の空、つめたい風もほろ酔いに心持ちよくうかうかと、うかれ烏(がらす)のただ一羽ねぐらへ帰る川端で、棹(さお)のしずくか濡れ手で粟(あわ)、思いがけなく手に入る百両」

 お嬢の長せりふは、形容が美しくテンポがあり、耳なじみのよいものだ。7字、5字で歯切れ良く区切られる、黙阿弥ならではの「七五調」である。

 「お坊とのやりとりでも、七五調の流ちょうなせりふはずっと続きます。そうやって運んでいくのが黙阿弥…

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小玉祥子

1985年入社。東京学芸部専門編集委員。現在の担当は演劇、古典芸能。著書に「芝翫芸模様」(集英社)、「二代目 聞き書き中村吉右衛門」(朝日文庫)など。

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