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国の「カスハラ」対策 現場を守る明確な指針に

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 顧客が威圧的な言動や理不尽な要求をする「カスタマーハラスメント」について、厚生労働省が企業向けの対応マニュアル作りに乗り出す。

 カスハラの被害は近年深刻になっている。顧客や取引先から無理な注文やクレームを受けて精神障害になり、労災認定された人は2019年度までの10年間で100人に上る。このうち35人は自殺している。

 労働組合が17年に小売業などの組合員約5万人を対象に実施した調査では、約7割が「業務中に来店客からの迷惑行為に遭遇した」と回答した。

 SNS(会員制交流サイト)を使って企業や個人を一方的に批判する行為が横行し、カスハラが起きやすくなったことも問題を悪化させている。

 今年は新型コロナウイルスの感染拡大で、マスクや消毒液が品切れになった際「役立たず」などの暴言を浴びたり、配達員が消毒スプレーをかけられたりする被害があった。

 顧客であっても悪質な要求や言動は論外だ。企業には従業員の安全や健康を守る責務がある。

 一方で苦情がサービス向上につながるケースもある。そのため、カスハラの線引きに悩む企業は多い。国は問題となるケースを具体的に示し、企業の取り組みを後押ししなければならない。

 まずは従業員や労働組合から被害の実態を詳しく聞く必要がある。「クレーム対応窓口の一元化」や「会話の録音・録画」など、既に対策を取っている企業の実例から学ぶことも大事だ。

 被害を減らすために消費者教育も忘れてはいけない。カスハラは脅迫罪や恐喝罪などに問われるケースがある。厚労省は消費者庁とも連携し広く市民に周知したい。

 国土交通省は19年、鉄道の駅員への暴力行為などを無くすため、鉄道各社と情報を共有する連絡会議を立ち上げた。

 対策を推進する上で参考になる取り組みだ。厚労省も各企業や消費者団体、労働組合などを対象に検討すべきだろう。

 マニュアルを形だけ作っても現場の従業員を守ることはできない。不当な要求に「ノー」といえる明確な指針が求められている。

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