「ほれ、さっさとかけろ」
打開の手だてがまるで浮かばない。ハナコ(、、、)の安否も気がかりだが、振りかえったら即つき落とすと脅す弟田口はほんとうにそれをやりそうだ。もっとも、ここでなにを選んでも遅いか早いかのちがいにすぎず、どのみち死の道を歩まされることに変わりはないのだろう。生死の瀬戸際にあるせいか、痛みや寒さに鈍感になってきていることのみが救いだ。
呼びだし音を鳴らすあいだの緊張感は物理的な殴打にもおとらぬ圧力で心をつぶしにかかった。自分自身の生死がかかっているのだから当然の話だ。どんなに待っても沢田龍介はビデオ通話に応答しなかった。雨に濡(ぬ)れて冷えてきたらしく、弟田口は片手でスキンヘッドをこすりつつ「出ねえなくそ、もういいわ」などと言ってきて呼びだしをやめさせた。
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