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常夏通信

その71 戦没者遺骨の戦後史(17) 硫黄島から始まった遺骨収容 元軍人が「野ざらし」状態を調査

第二次世界大戦の激戦地、硫黄島。手前が摺鉢山=東京都小笠原村で2018年1月26日、本社機「希望」から須賀川理撮影

 私は、多くのメディアが8月を中心に報道する戦争関連の記事を一年中、10年以上続けている常夏記者だ。一般に戦争は75年前に終わったことと思われていて、「ニュース」を重んじる新聞社の記者としては、私は異端だろう。しかし、そんな変人記者にも関心を持ってくれる同業者がまれにいて、アドバイスを求められることがある。

 メディア各社は、当然ながらライバル関係にある。「敵に塩を送る」ようなことをしてはいけない。いけないのだが、私は時に、その原則を破ることもある。国が始めた戦争で甚大な被害に遭い、今も苦しんでいる人たちがたくさんいる。戦没者100万人以上の遺体、遺骨が行方不明のまま。その遺骨の帰還を強く願っている遺族もいる。戦闘は75年前に終わったが、広義の戦争は今も未完なのだ。だから、その気になれば戦争は「ニュース」として報道できる。戦後未補償の現実を広く知ってほしい。そのためにはたくさんのメディア、記者に報道してほしい。だから私は、このテーマについては敵に塩をばんばん送る。

硫黄島に渡る方法は?

 たとえば、民間人空襲被害者の活動について報道したい、という記者には取材対象者を紹介する。戦争体験者や遺族、研究者らだ(もちろん対象者の了解を得て)。重要な資料がどこで手に入るかも教える(すでに私が毎日新聞で報道したものに限るが)。

 より大きなテーマで、「戦後補償問題をやりたい」と相談されたこともある。私はそういう場合、「その問題に関心があるなら、戦没者遺骨の問題をやるべきですよ。まずは硫黄島に行くといい。政府の、戦後補償問題における重大な不作為を象徴する場所ですから」と強く勧めることにしている。

 しかし、硫黄島は全島が自衛隊の基地で、民間人の渡島は厳しく制限されている。戦没者の遺族さえ、自由には渡れないのだ。

 だから「どうやったら硫黄島に行けますか?」と、よく聞かれる。海外のジャーナリストから聞かれたこともある。

 本連載その57で触れたように、2006年に公開された映画「父親たちの星条旗」「硫黄島からの手紙」のクリント・イーストウッド監督はロケの一部を硫黄島で行っている。そのことを伝えた上で、こう言い添える。

 「私だったら、防衛省に『アメリカ人が映画製作のために上陸できて、なぜ我々日本人の記者は行けないんですか?』と聞きますね。それで『日本の記者だって、毎日新聞の栗原記者は単独取材を含めて何度も行ってるじゃないですか』と言いますよ」

海外の戦没者240万人

 さて、第二次世界大戦における日本人の戦没者(戦争終結後のソ連による抑留を含む)310万人のうち、海外の戦没者は240万人(厚生労働省の推計。沖縄、硫黄島を含む)に上る。主な内訳は、中国(旧満州とノモンハンを含む)が71万1100人▽フィリピン・ミャンマーなど東南アジア諸国71万9400人▽旧ソ連5万4400人▽東部ニューギニア・西イリアン18万600人▽インド3万人▽ビスマーク・ソロモン諸島11万8700人▽アリューシャン(千島、樺太含む)2万4400人▽硫黄島2万1900人▽沖縄18万6500人――などだ。

 敗戦後しばらくの間、占領下にあった日本政府は、海外の遺体や遺骨を収容するどころか、調査すら極めて困難であった。外交権がなく、直接相手国と交渉することはできない。またソ連や中国など、いまだ多数の邦人が帰還できていない状況で、遺骨の収容を優先することも難しかった。

 しかし、「これら海外戦没者の遺骨は、部隊の復員の前あるいは部隊が復員のとき持ち帰ったもの、あるいは一般邦人が引揚げの際に持ち帰ったもの以外は、旧…

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栗原俊雄

1967年生まれ、東京都板橋区出身。早稲田大学政治経済学部卒、同大学院修士課程修了(日本政治史)。96年入社。2003年から学芸部。担当は論壇、日本近現代史。著書に「戦艦大和 生還者たちの証言から」「シベリア抑留 未完の悲劇」「勲章 知られざる素顔」(いずれも岩波新書)、「特攻 戦争と日本人」(中公新書)、「シベリア抑留 最後の帰還者」(角川新書)、「戦後補償裁判」(NHK新書)、「『昭和天皇実録』と戦争」(山川出版社)など。

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