毎日新聞
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「女・男の気持ち」(2020年11月19~25日、東京・大阪・西部3本社版計19本)から選んだ「今週の気持ち」は、東京本社版11月25日掲載の投稿です。
◆ ◆
<今週の気持ち>
心にマスクを 千葉市美浜区・服部静佳さん(無職・53歳)
10年ほど前のことだ。当時勤めていた職場で、私のうっぷんは許容量を超えてしまい、ある人物に対して怒りを直接ぶつける機会をうかがっていた。
ある日、絶好のチャンスと思われる場面が訪れた。「今日こそ絶対言ってやる」。そう心に決め、用事を済ませてその人物がまだいるであろう場所へ直行した。少しばかり足音を立てながら。
「あっ」。そこには誰もいなかった。そして、すぐに思った。「神様ありがとう」
不思議なことに、残念だとか悔しいなどという思いは少しもわかなかった。少々感情的になりすぎる性格を自覚しているのに、嫌悪感にさいなまれることを繰り返す私は、何度このようにして救われたことだろう。
口から出てしまった言葉は元に戻らない。書いたものもだ。昨今、無責任に発した言葉が人を傷つけ、しばしば悲しい結果となって伝えられる。今のように便利ではなかった時代は、私と同じようにすんでのところで大事にならずにすみ、胸をなで下ろした人も多かったのではないかと想像する。
伝達手段として必要不可欠な「言葉」。今一度、日々の生活の中でその重みをかみしめ、感情をコントロールしながら使っていかねばと思う。幸い今はマスクが口元を隠してくれている。心にも小さなマスクをして、ぐっと我慢である。
◆ ◆
<担当記者より>
「心にも小さなマスク、いい言葉ですね」。この「女の気持ち」が掲載された日、同僚が担当記者に声をかけてくれました。日々、言葉を扱う仕事をしている記者にも刺さる言葉を投稿してくださった服部さんは「10年前の体験を書きましたが、もっと昔の、不便だった時代のほうが、助かっていたことはあると思うんですよね」と話してくださいました。
メールやSNSなどの発達で、時間や場所を問わず、そのときの自分の感情を瞬時に言葉で発信できるようになりました。簡単、便利に数多くアウトプットできる半面、一つ一つの言葉は「軽く」なっているのでは、という趣旨の服部さんの指摘には、うなずけるものがありました。あっという間に伝わるからこそ、その言葉を手放す前に少し時間を取る――改めて実践したいと思いました。
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