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毎日新聞

障害者スポーツの現状や課題について語る笹川スポーツ財団の小淵和也・政策ディレクター=東京都港区で2020年10月14日午後2時、村上正撮影

東京・わたし

「障害者の運動実施率向上を」 笹川スポーツ財団ディレクター・小淵和也さん

 東京パラリンピックは、夏季大会としては初めて同一都市で2回目の開催となる。国内の障害者スポーツを取り巻く環境に変化は生まれているのだろうか。笹川スポーツ財団で障害者スポーツの普及状況などを調査している小淵和也・政策ディレクター(41)に現状や課題を聞いた。【聞き手・村上正】

 ――パラリンピックへの関心は高まっていますか。

 ◆注目度は、開催が決まった2013年から一気に上がりました。メディアで報じられる量が増え、行政による障害者スポーツ事業も増加しています。開催決定から1年後に行われた14年の調査では、ほぼ100%の人が「パラリンピック」という言葉を知っていました。ただ象徴的だったのが、パラリンピックに出場できる選手の対象となる障害について聞くと、肢体不自由(運動機能障害)、視覚、知的の三つを正確に答えられた人は0・5%にとどまりました。

 メディアによる報道が盛り上がる中で、国民は受け身の形で情報を得ており、一歩踏み込んだ理解については今も課題として残っています。

 ――障害者のスポーツ環境はどうでしょうか。

 ◆最も分かりやすい指標が、障害者のスポーツ実施率(週1回以上)です。東京大会が決まった13年から隔年で調査が行われてきましたが、実施率に大きな変化はなく、約2割で推移しているのが現状です。17年3月に策定された国の「第2期スポーツ基本計画」では、実施率4割を目標にしています。周囲の注目が高まっている中で変化が乏しく、関係者の多くが大きな問題だと捉えています。

 ――なぜスポーツ実施率に変化がないのでしょうか。

 ◆障害者が利用しやすいように「障がい者スポーツ指導員」の配置や点字ブロックの設置など工夫された専用・優先スポーツ施設が、全国に141施設存在しますが、国内の障害者の総数は約960万人とされており、141の施設だけでは受け皿として十分とは言えません。

 東京パラリンピックを契機にスポーツを始めたいと思っても、環境が変わらなければ、2割にとどまっている障害者のスポーツ実施率にも変化が生まれないのではと懸念されています。

 ――健常者も利用する一般施設の利用は?

 ◆一般の施設で受け入れを拒まれたというケースもあります。スポーツジムで筋力トレーニングをしようと思っても「指導できる人がいない」「過去に障害者が利用したことがない」などが理由に挙げられます。障害のみを理由として利用を断ることはできません。それらは16年に施行された障害者差別解消法にも明記されています。

 障害者が自宅を出てスポーツ施設に到着するまでの移動にはいくつもの障壁があります。ようやくたどり着いても、利用を断られてしまっては「もうスポーツなんてやらない」という思いになり、スポーツへの無関心が進む可能性があります。

 ――障害者でスポーツに無関心という人の割合は?

 ◆健常者で約2割とされるスポーツへの無関心層は、障害者では約半数に上ります。学齢期の体験が非常に重要です。足の不自由な子どもが、障害を理由に小学校の6年間にわたって体育を見学していたという例もあります。見ているばかりでスポーツを好きになることは難しいでしょう。

 各学校ではオリンピック・パラリンピック教育が取り入れられています。生徒たちは障害者に配慮した競技特性を理解します。それらをぜひ実践してもらいたい。障害の有無にかかわらず、一緒に楽しめるルール作りです。それらを当たり前と思える子どもたちが大人になり、困っている人を助けたり、配慮したりするのが当然となると社会は大きく変わっていくと思っています。

 ――東京パラリンピック開催で期待することは。

 ◆パラリンピックが大きく盛り上がり、障害者スポーツの注目度はさらに上がるでしょう。ただ、気をつけてもらいたいのは、障害者がスポーツを必ずするとは思わないでもらいたいことです。

 スポーツができて当たり前、しない人は怠け者、という風潮が生まれればとても危険です。相模原市の障害者施設で利用者ら19人が殺害された事件で、元職員の男性死刑囚は「障害者は役に立たない」と異常な考えを持っていました。スポーツをする権利はあるが、しなくてもよい。したくても、できない人もいます。それらを互いに認め合うことが本当の共生社会のあり方だと思います。

おぶち・かずなり

 1979年生まれ、栃木県出身。楽天などを経て、2010年から笹川スポーツ財団。主に地域の障害者スポーツに関する調査、研究を行っている。17年から現職。

村上正

毎日新聞東京本社運動部。1984年、神戸市生まれ。2007年入社。舞鶴支局、神戸支局を経て、大阪本社社会部では大阪府警を担当。17年4月から現職。競技は水泳やサーフィンを担当。東京パラリンピックでは取材班キャップ。16年リオデジャネイロ五輪を取材した感動から、長女に「リオ」と命名した。