新型コロナウイルス蔓延(まんえん)の影響は出版界も無縁ではない。文学賞授賞式は中止や縮小が相次いだ。取材や編集者との打ち合わせに大きな制約が出た作家も多いはずだ。なによりコロナ禍の下では、これまで何気なく書かれてきた設定が成り立たなくなる場合も出てくるに違いない。だが先月には東野圭吾『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』、榎本憲男『インフォデミック 巡査長真行寺弘道』など、コロナ禍の「いま」を描いた作品が発表されている。厳しい現実にすばやく向き合う作家の覚悟に、あらためて胸を打たれた。
佐々木作品は、日露戦争に敗れた日本が、ロシアの占領下にあるという設定の下、刑事が殺人事件を追っていく、改変歴史ミステリーだ。事件の背後から、親露派と反露派の対立や、世界大戦への追加派兵問題で揺れ動く国内の社会情勢が浮かび上がる。駐留軍の圧力など多くの制約がある中で、法律だけに忠誠を誓う一刑事の覚悟に、心打たれる。
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