「女・男の気持ち」(2020年11月26日~12月2日、東京・大阪・西部3本社版計21本)から選んだ「今週の気持ち」は、東京本社版12月1日掲載の投稿です。
◆ ◆
<今週の気持ち>
手紙 千葉県松戸市・花嶋八重子さん(自営業・59歳)
宝物って何でしょう。価値観が多様化している現代では、人により千差万別ですね。
私にとって一番は、一人娘です。しかし、彼女はもう21歳。「もの」ではありませんし、彼から婚約指輪をもらって結婚の予定。母から巣立ってゆきます。
では、夫? いえ、私は20年前に離婚。育児や家事、仕事に追われ、恋することもなく、今は認知症の親を介護する日々。一緒にカフェに行く人もいません。
やはり「もの」ではありませんが、猫シェルターから引き取った保護猫のテレサは、ずっと一緒の大切な宝。やがて訪れる別れのときまで、あと何年あるかしら。彼女は10歳です。
小春日和の日に開かずの間の掃除をしていて、郵便番号が5桁の古い封筒が出てきました。開いてみると懐かしい文字が。1986(昭和61)年12月1日の日付の、昔の恋人からの手紙でした。
一緒に行ったコンサートやラグビーの試合のチケットも出てきました。「君だけが弱いんじゃない。人は1人では強くなれないけれど、2人なら強くなれる」。ちょっとクサイと照れながら、彼が私に贈ってくれた言葉たちに、後から後から涙が……。我慢せず泣いていいよ、と彼が言ってくれているようでした。
この34年前にもらった、結婚したかった彼からの手紙が私の宝物です。
◆ ◆
<担当記者より>
「『親を捨てて出ていくのか。この裏切り者め!』という時代錯誤も甚だしい親の猛反対で、彼との結婚をあきらめたのです」と花嶋さん。家を継ぐため、結婚相手には養子になってもらうことが条件だったご両親には、自営業の長男だった彼が許せなかったようです。
「一人娘には好きな人と幸せになってほしい、という願いがかない、母としては幸せです」と話しますが、「これからの生活を考えると、寂しさは否めません。でも、娘の邪魔は絶対にしたくありません」とも。
お嬢さんが巣立つ、子育て卒業ともいえる時期に、手紙で彼と「再会」した花嶋さん。これまでの頑張りと今の寂しさを認めてもらえたようで、思わず涙がこぼれたのでしょう。「カタルシスを得たというか、泣いて気持ちが浄化された気がします」と話し、この手紙を「宝物」と言い切った花嶋さんに、担当記者も深く感銘を受けました。
みなさんからのコメントもお待ちしています。コメントはこちらからどうぞ。