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N響11月公演~若手指揮者でひと味違うN響の魅力が開花

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NHKホール公演で指揮を務めた熊倉優(中央右)と、N響とは初の協演となった藤田真央(ピアノ) 写真提供:NHK交響楽団
NHKホール公演で指揮を務めた熊倉優(中央右)と、N響とは初の協演となった藤田真央(ピアノ) 写真提供:NHK交響楽団

【NHK交響楽団11月公演】

 NHK交響楽団の定期公演に代わる「11月公演」に熊倉優と原田慶太楼の2人の若手指揮者が登場し普段の定期とはひと味違ったN響の魅力を聴かせてくれた。取材した11月15日(NHKホール)と25日(サントリーホール)の公演について報告する。

(宮嶋 極)

 NHKホールでの公演を指揮した熊倉は今年28歳の俊英。2016年から19年まで、N響及び同団首席指揮者のパーヴォ・ヤルヴィのアシスタントを務めており、その才能はパーヴォが認めており、オーケストラのメンバーからも好評価を受けていることから、定期に相当する重要なステージの指揮を任された。プログラムはメンデルスゾーンの序曲「フィンガルの洞窟」、シューマンのピアノ協奏曲イ短調、メンデルスゾーンの交響曲第4番イ長調「イタリア」などのドイツ系の構成。シューマンのソリストは昨年のチャイコフスキー国際コンクールで2位に、17年には第27回クララ・ハスキル国際ピアノ・コンクールで優勝するなど世界的に注目を集める今年22歳のピアニスト、藤田真央が務めた。コンサートマスターは白井圭、弦楽器の編成は14型。

 熊倉の音作りはN響の特質をよく理解していることをうかがわせるもの。重厚な響きを活用しながら、しなやかな音楽の流れを作っていく。オーケストラのメンバーも若きマエストロを信頼し、その目指すものを支えていこうとの思いをもって演奏に臨んでいることが聴衆にも伝わってきた。

 藤田のソロは若いのによく弾けているという域を超えて、既に自らの世界をしっかり構築し、その理想に向かって演奏を進めていくという高度なものであった。繊細なタッチがシューマンのロマンティシズムに微妙な陰影をもたらし、聴く者を彼の世界に引き込んでいく。熊倉との若手共演で生まれた〝化学反応〟は、エネルギーあふれるはつらつとした演奏というありきたりのものではなく、精神的な内面性を掘り下げていこうとの意思を感じさせる純度の高いものであった。

25日の公演から、聴衆の喝采に応える原田慶太楼 写真提供:NHK交響楽団
25日の公演から、聴衆の喝采に応える原田慶太楼 写真提供:NHK交響楽団

 一方、25、26日のサントリーホールでの公演を指揮した原田はこのコロナ禍で、各オーケストラから引っ張りだこの人気ぶりとなっている。今回、自らの音楽的ルーツをたどるアメリカン・プログラムとしてバーンスタインの「オン・ザ・タウン」から、G・ウォーカーの「弦楽のための叙情詩」、コープランドのバレエ組曲「アパラチアの春」、マルケスのダンソン第2番などを披露した。コンマスは伊藤亮太郎で、弦楽器は14型。

 N響の定期に相当するコンサートで、こうしたプログラムが組まれたことはコロナ禍ならではの楽しみと解釈すべきか、あるいはかつて保守的とも言われたN響の柔軟な変化の表れと捉えるべきか、はたまた原田の度胸なのか、いずれにせよ歓迎すべきことであろう。それは米大陸の音楽の多様性を上質の演奏で体験するよい機会となったことに加えて、一時代前に比べるとN響の対応力の幅が格段に広がっていることを実感できたからだ。バーンスタインやコープランドについてはN響ファンにもある程度なじみがあったであろうが、アフリカ系アメリカ人のジョージ・ウォーカーやメキシコの作曲家アルトゥーロ・マルケスの作品については初めて接した人も多かったはずだ。ウォーカーの「弦楽のための叙情詩」は亡き祖母への追憶の思いを表現した作品で、バーバーの「弦楽のためのアダージョ」にその作風が似ている。温かみを感じさせるサウンドが特徴でN響弦楽器セクションの厚みのある響きが作品に一層の深みをもたらしていた。オーケストラの特質を生かした原田の選曲の妙が光る。

 ラストに演奏されたマルケスのダンソン第2番はキューバのダンス音楽。全プレイヤーがノリノリで楽しみながら情熱をほとばしらせて公演を締めくくった。シモン・ボリバル・ユース・オケのように立ち上がって踊るまではしなかったが、こんなN響これまで見たことがない、というくらいのノリの良さでキューバ音楽のパッションが余すことなく表現されていた。感染防止対策のため「ブラボー」などの掛け声が禁じられていたが、そうでなければ客席から盛大な歓声が湧き起こっていたに違いない。それでも客席からはコロナ禍の陰うつなムードを吹き飛ばすような快演を聴かせてくれた原田とN響に盛大な喝采が送られていた。

公演データ

【NHK交響楽団11月公演】

◆11月14日(土)18:00 、15日(日)15:00 NHKホール

指揮:熊倉 優

ピアノ:藤田真央

メンデルスゾーン:序曲「フィンガルの洞窟」Op.26

シューマン:ピアノ協奏曲イ短調Op.54

バッハ(レーガー編):コラールの前奏曲「おお人よ、おまえの罪に泣け」BWV622

メンデルスゾーン:交響曲第4番イ長調Op.90「イタリア」

◆11月20日(金)19:00、21日(土)14:00 東京芸術劇場コンサートホール

指揮:原田慶太楼

ヴァイオリン:神尾真由子

コリリャーノ:「航海」

バーバー:ヴァイオリン協奏曲Op.14

ドヴォルザーク:交響曲第9番ホ短調Op.95「新世界から」

◆11月25日(水)19:00、26日(木)19:00 サントリーホール

指揮:原田慶太楼

バーンスタイン:「オン・ザ・タウン」~〝3つのダンス・エピソード〟

G・ウォーカー:「弦楽のための叙情詩」

ピアソラ:「タンガーソ(ブエノスアイレス変奏曲)」

コープランド:バレエ組曲「アパラチアの春」

マルケス:ダンソン第2番

筆者プロフィル

 宮嶋 極(みやじま きわみ) 毎日新聞グループホールディングス取締役、番組・映像制作会社である毎日映画社の代表取締役社長を務める傍ら音楽ジャーナリストとして活動。「クラシックナビ」における取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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