生島ヒロシさん 遺体見つからぬ妹の葬儀に届いた「神様からの贈り物」
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4人兄妹が育った実家の食堂には漁師たちの威勢の良い話し声が飛び交い、時折町を訪れる銀幕スターに夢中になった――。そんな思い出と優しい妹を津波で奪われたアナウンサー・生島ヒロシさん(69)=宮城県気仙沼市出身=を、深い悲しみから救ったものとは何だったのか。東日本大震災の発生から2021年3月で10年となるのを前に、被災地ゆかりの人たちに東北への思いやエールを語ってもらうシリーズ「メッセージ~東日本大震災10年へ」。今回は、生島さんが古里や亡くした妹・喜代美さん(当時57歳)への思いを語ります。【聞き手・構成 金森崇之】
高校まで暮らした気仙沼市の実家「伊勢浜食堂」は、いつも夜中まで漁師のお客さんでいっぱいでした。365日、正月も休まなかったですね。ラーメンは麺がやや硬め、かつおぶしと煮干しのだしが絶品でした。「伊勢浜食堂の冷やし中華を楽しみに気仙沼に来るんですよ」なんて漁師さんがいたのを覚えています。TBSのアナウンサーになってからも、夏休みに帰ると出前の配達をしていました。
サンマの時期は全国から漁師さんが集まり、特ににぎやかになる。皆さん腕っ節が強いですから、あちこちでけんかがあった。トラックが家の前で曲がるとサンマがバババッと落ちるので、拾って晩のおかずになるんです。それが気仙沼の日常で、昭和の薫りが残る町でした。
小学生の頃、あんな小さな町に映画館が六つも七つもあったんです。「愛と死をみつめて」とか「若大将」シリーズも見ました。映画館には渡哲也さんや梶芽衣子さんらスターがあいさつに来てくれた。妹(亀井喜代美さん)が着物を着て、田宮二郎さんに花を渡したのを今でも覚えています。ただ、1970年代に200カイリの漁業専管水域が設定されて漁が制限されると景気が悪化し、実家の店も客が減っていきましたね。
震災の時は仙台市で講演をしていて、タクシーを5台乗り継いで約17時間かけて東京に帰りました。よく無事だったと思います。福島県郡山市でタクシーを乗り換えた時、カーナビで気仙沼の火事の映像を見たんです。妹の家から近いので、すごく嫌な予感はしました。でも、僕は「大丈夫、絶対に妹たちは逃げている」と自分を鼓舞して……。その後はいろいろな情報が入ってきて、避難所で妹夫婦を見たという話もありました。それは、誤情報だったんですけど。
妹夫婦はその年の2月に他界した母の遺骨を持って、3月11日に東京に来ることになっていたんです。だから揺れの直後、妹は僕の妻に「すごい地震なので行けないかもしれません」と電話をかけてきました。妻は「早く逃げなさい」と言ったんですが、本人たちは逃げる気持ちになっていなかったのかな。過去にチリ地震もあったし、今までの経験から「想定外」が想定できなかったと思うんです。
妹は懐が深いというか、大人だった。のんびりしていて、3人の男兄弟がけんかをすれば「まあまあ」と間に入って。男どもはよく夢を語っていましたが、妹は自分の主義主張はあまり言わなかったですね。頭が良かったんですが、大学に行くとも言わずに地元の保険会社に勤め、結婚して、母のそばにいて面倒をずっと見てくれて、「皆が幸せなら私はいいわよ」って我慢する。だから、じっとしていれば収まると考えたんじゃないかな。…
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