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生殖補助医療法の成立 大事な議論が置き去りだ

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 第三者から精子や卵子の提供を受け、体外受精などの生殖補助医療で生まれた子について、親子関係を定める法律が成立した。

 誕生直後に親子関係を確定させるものだ。卵子の提供を受けた場合は、出産した女性が母親となる。精子提供に同意した夫は、生まれた子の父親となる。

 しかし、人為的な妊娠をどこまで認めるかには、さまざまな意見がある。国会の審議時間も短く、生殖補助医療のあり方や、どのような法規制をするかなどの大事な議論は先送りされた。

 これまで日本には、生殖補助医療に関する法律がなかった。家族について規定している民法も、こうした出産を想定していない。トラブルが起きて、裁判になるケースもあった。

 精子提供による不妊治療は1948年から行われ、1万人以上が誕生したとされる。現実に医療が進んでいく一方で、対応は学会任せになっていた。

 厚生労働省と法務省の審議会は2003年、法整備の考え方を示したが、実現には至らなかった。

 菅義偉首相が少子化対策として不妊治療への保険適用を打ち出したことに後押しされ、議員提案で立法化された。

 これで精子や卵子の提供が法的に認められた形となった。だが、提供のルールを設けなければ、利益を優先する業者の関与や不透明な取引を招きかねない。

 特に重要なのは、子どもの「出自を知る権利」だ。欧州では人権として認められ、そのための法整備がなされている。日本でも過去に検討されたが、今回は「権利の定義が定まっていない」との理由で盛り込まれなかった。

 当事者からは、「告知が遅れれば、親への不信感や自己喪失感が生じる」との声も上がっている。

 権利を保障するためには、希望する子がアクセスできるように、提供者の情報を管理しておく仕組みが必要になる。親による告知のあり方も検討すべきだ。

 代理出産の扱いも残された問題だ。学会が禁じる半面、海外で契約するカップルも少なくない。

 法律の付則には、2年をめどに課題を検討すると記された。多様な生き方を尊重しつつ、社会全体で議論を深めなければならない。

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