柳美里が全米図書賞を受賞した。これで彼女がノーベル文学賞候補となるのは確実だろう。同賞はアメリカでもっとも権威ある文学賞だ。今年のノーベル文学賞は米国の詩人ルイーズ・グリュックが受賞したが、彼女もまた2014年に全米図書賞を受賞している。
受賞作は『JR上野駅公園口』。東京五輪の前年に出稼ぎで上京した男が、やがてホームレスとなり、上野駅周辺を彷徨(ほうこう)する。時代と風景と男の内面が多声的に交響する――駅が起点の物語『マンハッタン乗換駅』(ドス・パソス)や公園/広場の物語『ベルリン・アレクサンダー広場』(アルフレート・デーブリーン)を想起した。中編ながら、大きな構えの傑作小説だ。
再度の東京五輪が延期となった今年、柳が同作で国際的評価を得たことは感慨深い。彼女の祖父は80年前、1940年に開催されるはずだった“幻の東京五輪”の有力候補ランナーだ。36年のベルリン五輪で男子マラソン金メダルに輝いた孫基禎の友人である。孫も、柳の祖父も朝鮮人でありながら、併合下に日の丸をつけて走った。96年、柳は韓国で孫と会見、後の感動的な交流は近著『国家への道順』に詳しい。同書で彼女は「オリ…
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