連載

余録

毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

連載一覧

余録

子どもが眠たそうにしていると…

  • はてなブックマーク
  • メール
  • 印刷

 子どもが眠たそうにしていると、「ほら、サンドマン(砂男)が来たようね」とからかう言い回しが英語にある。サンドマンとは眠りの精のことで、子どもの目に眠りの砂をかけて眠たくさせるという▲もとは欧州の話でドイツ語ではザントマン。今は目に見えない小人といわれるが、古くは砂袋を背負った老人の姿で、なかなか寝ない子どもに「ザントマンが目玉を取りに来る」と脅して寝つかせたとか。不気味な妖怪だったらしい▲人を眠らせる砂かけ男も怖い。だが現代のもっと怖いところは、大量に販売された病気の治療薬に「眠りの砂」が間違って紛れ込むというとんでもない過失が起きることだ。爪水虫の治療薬に睡眠導入剤が混入されていた一件である▲問題の薬は福井県の小林化工が製造した「イトラコナゾール錠50『MEEK』」約9万錠。製造過程で足りなくなった原薬を補充する際に誤って睡眠導入剤の成分を混入し、1錠あたり1回の最大投与量の2・5倍の成分が混ざった▲これまでに意識や記憶が飛ぶなどの健康被害が146件確認され、70代の女性1人が亡くなった。交通事故も19件あった。服用した人にすればまるでワナにかけられたような話である。聞くだけで、肝(きも)が冷え、怒りがこみ上げてくる▲ありがちな話だが、原薬つぎ足しや作業員の単独作業など、承認された手順や内規をすり抜ける非安全行為が積み重なってのこの事故だという。会社の安全管理体制はザントマンのまいた砂で眠り込んでいたのか。

あわせて読みたい

注目の特集