3年前に神奈川県座間市のアパートで9人が殺害された事件で、東京地裁立川支部が白石隆浩被告に死刑判決を言い渡した。
15歳から26歳までの若者が、2カ月の間に次々と命を奪われた。9人はみな、ネット交流サービス(SNS)に「死にたい」などと書き込んでいた。
裁判で白石被告は、所持金を奪って性的暴行をするのが目的だったと述べた。自分も自殺願望があるように装ってやりとりし、「問題や悩みを抱えた女性は、思い通りにできると思った」と語った。
理不尽な凶行に、遺族が厳しい処罰感情を抱くのは当然だろう。
「引きこもりから脱して働き始めた」「資格を取るため勉強を始めようとしていた」「成人式の着物姿を楽しみにしていた」
遺族の法廷証言や調書からは、生きづらさや悩みを抱えながらも、懸命に生きようとしていた被害者の姿が浮かぶ。
SNSのやりとりで「何とか生き抜こう」と記した人もいた。
今もインターネット上には、死を望むような投稿がある。「助けてほしい」というメッセージだと専門家は指摘する。だが、こうした書き込みにつけ込んだ事件は、その後も起きている。
危険な目に遭う前に、素早く支援につなげる取り組みが欠かせない。ネット上をパトロールして発信を見つけ、相談窓口を案内しているNPO法人がある。
座間事件を受け、厚生労働省は自殺防止を目的として、SNSでの相談事業を始めている。昨年度は4万5106件の相談があり、前年度から倍増した。
ただし、体制が追いついていない。相談件数の2割程度しか対応できないところもあり、専門知識を持つ人材の確保が急務となっている。国は対策を強化すべきだ。
SNS事業者も、自殺に関する検索をすると、相談窓口が表示されるようにしている。
悪意を持って近づく人がいるのがSNSの現実だ。危険性を伝える努力も続けなければならない。
コロナ禍に伴う外出自粛で、SNSの利用が増えている。一方で7月以降、自殺者数は前年を上回り、特に女性が増加している。
惨劇を忘れず、命を守る仕組みを拡充しなければならない。