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トランプ政治の弊害 米国の民主主義を損ねた

 4年にわたるトランプ米政権が終わりに近づいている。大統領選で選ばれた選挙人による投票で、民主党のバイデン前副大統領が次期大統領になることが確定した。

 トランプ大統領は国内外を混乱させた。米国の民主主義は損なわれ、分断と対立が深まった。

 「トランプ政治」はなぜ生まれ、何を残したか。その総括なしには米国を再建できないだろう。

 「もう一つの事実だ」。2017年のトランプ政権発足直後にホワイトハウス高官が繰り返し発したことばが記憶に残る。

 就任式の観衆が「過去最多」だったと主張し、事実ではないと指摘されると、テレビやネットの視聴者を含めた数だと強弁した。

 虚偽を正当化し、不都合な事実から目を背け、虚構の世界に安住する。振り返ればトランプ政治の原点だった。

目に余る独善的な言動

 暴力的な白人至上主義者を擁護し、黒人差別の抗議デモをテロ扱いする。アフリカ系の下院議員には「国に帰れ」と暴言を吐いた。

 意に沿わない閣僚や高官を次々と解任した。国務長官や司法長官、連邦捜査局(FBI)長官ら国家の中枢にも容赦なかった。

 議会や裁判所も標的にした。野党の民主党を「盗っ人」と呼び、移民政策を批判する連邦判事を「裁判官もどき」と中傷した。

 メディアも敵視した。「フェイクニュース」は、報道の真偽にかかわらず政権に刃向かう新聞やテレビを批判する決まり文句だ。

 郵便投票を「不正の温床」と決め付け、新型コロナウイルスを「すぐに消える」と矮小(わいしょう)化した大統領選中の言動は記憶に新しい。

 差別を助長し、分断をあおる。人事権を乱用し、権力を監視するチェック・アンド・バランスの仕組みをないがしろにする。

 権力を思うままに乱用し、米国の民主主義は深い傷を負った。

 そんなトランプ氏を支えたのは、経済のグローバル化や産業のオートメーション化で職を失い、低賃金に苦しむ労働者だ。

 「米国を再び偉大に」のスローガンの下、既存の政治に失望した人々が、トランプ氏に旧弊打破の破壊力を期待して結集した。

 不公正な貿易慣行を続ける中国に貿易戦争を仕掛け、核軍拡競争でロシアに反転攻勢する姿勢を見せた。支持者は留飲を下げた。

 しかし、その破壊力は無軌道に発揮された。

 影響は外交に端的に表れた。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)やイラン核合意など多国間の枠組みから相次いで離脱した。

 国益追求の姿勢をむきだしにした結果、既存の秩序に代わる新たな枠組みはできず、米国の孤立化を招いただけだった。

 大統領の職責を問う弾劾裁判では、トランプ氏が選挙目当てでウクライナ大統領に圧力をかけた経緯が白日の下にさらされた。

 米ピュー・リサーチ・センターの調査では、トランプ氏に対する信頼度はプーチン露大統領、中国の習近平国家主席よりも低い。

分断克服する処方箋を

 だからといって、支持者たちはトランプ氏に失望したのだろうか。前回を大幅に上回る得票が、そうではないことを示している。

 敗北を認めようとせず、根拠のない「投票詐欺」を主張し、「私が勝利した」とうそぶく大統領に多くの支持者が呼応している。

 ツイッターでは「米国史上最も腐敗した選挙」であり、「こんな米国は本来の米国ではない」と言い放った。

 世論調査によれば、トランプ氏の支持者の多くは、「選挙に不正」があるとし、バイデン氏を「正統な大統領」とはみなしていない。

 トランプ氏の4年後の大統領選再出馬を支持する有権者もいれば、共和党のキングメーカーになるとの見方もある。

 目の前に広がるのは、閉塞(へいそく)感への怒りや不満を燃料に、政治的活力を生み出すトランプ的ポピュリズムが根を張る米国の姿だ。

 自由を尊重し、寛容の精神を持つ米国の民主主義は世界の「灯台」と言われた。その健全な民主政治を呼び戻すのは容易ではない。

 だが、やるべきことは明白だ。格差を是正し、公正な社会をつくり、国際協調を重視する。それがトランプ政治への処方箋になる。

 そのためには超党派の取り組みが必要だ。バイデン氏は「結束のときだ」と呼び掛け、共和党の首脳部もバイデン氏の勝利を認めた。わずかな光明がそこにある。

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